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『剣遊記\』

第三章 南から来た大海賊。

     (5)

『いーだ! 孝治も正男くんも意地悪かことば言うからばい!』

 

 すぐに友美が、舌👅を出している涼子の元まで駆けつけた。こうまで派手に騒いでしまえば、もう周囲に構ってはいられなかった。

 

「涼子っ! いったいなんしよんね!」

 

『だって孝治ったら、あんまり冷たかことば言うっちゃけ♨ こんくらいの制裁は当たり前っちゃよ☠』

 

 ところが涼子が、友美に口答えを返している最中だった。

 

「孝治、僕を見くびるんやないがな」

 

 突然理由もわからず、天井から金だらいが落ちる奇怪な現象など、完ぺきに無視。黒崎はまったく気にもしないご様子。孝治たちに、いつもの冷静な姿勢で言ってくれた。

 

「誰も動かんとは言うてにゃあがや。現にこうして、地元の衛兵隊から未来亭宛てに、戦士や魔術師の派遣依頼が来とるんだがね」

 

「それってほんなこつ?」

 

 孝治は瞳を凝らす思いで、黒崎を見つめ直した。見れば黒崎の手にある封筒には、確かに岡山県の紋章が刻印されていた。孝治や友美は冒険仕事で全国をよく周るので、各地の紋章を自然に頭の中へと入れているのだ。だからこの封筒は間違いなく、岡山の衛兵隊からの依頼状と言えた。

 

 そうとわかれば、孝治は早速、黒崎への仕事ねだりを開始した。

 

「そげんやったら店長、それば先に言うっちゃってよねぇ☆ いつもながら人が悪かっちゃけぇ〜〜☻」

 

 ところが黒崎は、孝治を見事に頭越し。孝治を相手にしてではなく、ジッと腕を組んでなにやら思案にくれている帆柱に声をかけていた。

 

「こういうわけだがや。海上で戦うのはいつもと勝手が違うだろうが、ここはまず、帆柱君に頼みたいがや」

 

「言われんでも行く気ですっちゃよ、俺は♐✈」

 

 帆柱が黒崎への返答のついで、床に下ろしていた馬体を持ち上げ、それから剣を抜いて勇ましく身構えた。これがどうやら、帆柱なりの返事なのであろう。もちろん孝治も、帆柱先輩がどうしてここで剣を抜くのか。その理由は、とっくにわかっていた。

 

(ただのカッコ付けなんやけど、けっこう決まるっちゃねぇ、先輩は✇⛵)


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