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『剣遊記\』

第三章 南から来た大海賊。

     (13)

「そ、それで美奈子さん! 海賊退治への同行の件……い、いかがなもんでしょうか?」

 

 ヤバくなりそうな空気を感じ取ったのだろうか、友美が孝治と美奈子の間に割って入った。すると美奈子は友美の言葉どおりに本題へと戻り、やはり椅子にふんぞり返ったままで答えてくれた。

 

「その件どしたら、まあうちといたしましても、特に辞退申し上げる理由はおまへんさかいに……そやけどなぁ☛」

 

「……そやけどなぁ? なんかできんことでもあるとですか?」

 

 友美が再度、小首を傾げて尋ねた。美奈子はため息を漏らしつつで答えていた。

 

「海賊退治など、うちらにとっては実にたやすいことでおま✌ ただ、それでは得られる報酬が一定の枠に収まるほどやなんて、うちと千秋と千夏にとっては、少々かなんことでっせ✊」

 

(しばくっちゃよぉ! お高くとまってからにぃ!)

 

 いかにも高飛車な美奈子の言い分に、孝治は内心で煮え繰り返った。だけど口ゲンカならばともかく、実力戦になれば飛び道具に乏しい分、戦士は魔術師よりも大幅に不利なのだ。その代わりでもないのだが、孝治には孝治なりの考えがあった。

 

(まあ、おれかて美奈子さんの操縦法ば知っとうとやけ☻)

 

「でも海賊やったら、けっこうお宝ば隠し持っとんとちゃうやろっか☝」

 

「お宝どすかぁ!」

 

 孝治のわざとらしいひと言に、美奈子が即過剰反応を引き起こした。瞳にはしっかりと、紅蓮の炎が燃え盛っていた。孝治はしてやったりと、続けて言ってやった。

 

「そうっちゃよ☀ サンゴに真珠に古代文明のコインっとかやね♢♤♧」

 

「そ、そうどすなぁ〜〜♥♡ 金銀財宝なんかも、持ってはるんかいな?」

 

 美奈子の両方の瞳が、今度はあからさまな欲と憧れの色で、見事にトロンとなってきた。こうなれば実際、シメたものである。

 

「そりゃあるやろ☻ お宝の定番なんやけ✍ こればいつ奪取に行くか、今でしょ♡」

 

 ぬけぬけとほざきながら、孝治は腹の中でペロリと舌👅を出していた。

 

 孝治は美奈子たちが、とにかくお宝に異常に執着する性癖を、とっくに知り抜いているのだ。だからそれこそ馬の前にニンジンをぶら下げるかのごとく、彼女たちに宝の話を匂わせるだけで魚を釣るよりも簡単に、パクリと話(エサ)に飛びついてくれる。

 

 さらに念のため、孝治は付け加えた。

 

「言うとくっちゃけど、海賊の宝や言うて、勝手に自分のモンにしたらいけんとやけね✋ ちゃんと衛兵隊の捜査ば終えて、半年経ってほんまの持ち主が出らんで初めて、海賊退治の功労者であるおれたちのモンになるっちゃけね☚」

 

「え、ええ☀ もちろん承知してますえ♡ うちかてマネーロンダリングは心得てますさかい♡」

 

「千夏ちゃんもぉ、法律さん守りますですうぅぅぅ♡」

 

 などと意外なほどすなおな姿勢で、美奈子と千夏が孝治にうなずいた。しかしこのふたりの本音は、ひとり冷静な態度でいる千秋が、影でこっそりと代弁していた。

 

「まあ、ごまかしようなんか、いくらでもあるさかいになぁ☻」

 

 このセリフのとおり、恐らく美奈子も千夏も、腹の中ではベロ👅の出しまくりでいるのだろう。この点は孝治だって承知をしていた。

 

(まっ、今は手勢ば増やすほうが先決っちゃけね☺ おれもしょせん、同じ穴のムジナやけねぇ☻☢)

 

 それはとにかく、まだ正式に『行く』とは言っていないのだが、これで美奈子と双子姉妹の同行は、ほぼ決定したような話の展開。

 

『孝治もなかなかやるっちゃねぇ☻ あの美奈子さんば、手玉に取っとるんやけ☠』

 

「ま、まあね⛄」

 

 一応話をまとめた実績に感心をしてくれている涼子に向けて鼻を高くしながら、とりあえず交渉自体は成立。孝治たち三人は、美奈子たちの部屋をあとにした。

 

 このような中、こちらも話をまとめた功績の持ち主である友美だけは、小首を傾げてつぶやいていた。

 

「こげなやり方でよかっちゃろっか? まあ、こげんでもせんと、話が先に進まんとやけどね⛐」


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