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『剣遊記\』

第三章 南から来た大海賊。

     (12)

「おっと! ネーちゃん、急に起きたらあかんがな✋」

 

 いきり立つ孝治の頭から落ちそうになった氷嚢を両手で受け止め、千秋がやはり、澄ました顔でなだめようとしてくれた。

 

 いつものくノ一風野伏衣装であるが、千秋も孝治の気絶中に、買い物から帰ってきていたようだ。ちなみに氷嚢の中の氷は全部、孝治の興奮による熱で溶けていた。

 

「なんや買いモンから帰ってみたら、またネーちゃんが勝手に人ん部屋で寝とうやないか⛽ ほんま毎度ながら、千秋もビックリ天王寺動物園もんやで☻」

 

「しゃーーしぃーーったい!」

 

 可愛げの全然ない千秋の澄まし顔に、孝治は全身の温度が急上昇の思いとなった。

 

『まあまあ、短気は損気やけ☺』

 

 おまけに涼子までが尻馬に乗って、孝治をからかってくれる始末。考えてみたら、奔放な性格がここにもいたわけ。

 

 とにかく憤懣大爆発寸前の孝治は、ここで再び美奈子に矛先を戻した。

 

「……さ、最初の疑問に戻るっちゃけど、そもそもなして、天井からヘビん格好で落っこちてくっとや? どげん考えたかて、最初っから人ば脅かすつもりやったとしか思えんちゃけど☢」

 

 それでもやはり、美奈子は平然。孝治に(どうやら自慢らしい)胸を、正面から見せつけたままでいる姿勢からして、真にそうとしか思えなかった。

 

「うちはただ、天井から下りただけでおまんのやけど☀」

 

「孝治ちゃぁん、落ち着いてですうぅぅぅ♪ 千夏ちゃんもぉ言いましたですけどぉ、美奈子ちゃんはぁ、お散歩さんに行ってただけなんですうぅぅぅ♫♬」

 

「ちょい待ち✋」

 

 美奈子をフォローしているつもりらしい千夏に、孝治は左手の手の平を差し出して、その口を止めさせた。

 

「じゃ、なんね? あんたのお散歩っちゅうのはコブラになって、天井裏ば這いずり回るっちゅうことね?」

 

「はい、そうどすえ✌」

 

「…………☂」

 

 シレッと答える美奈子に、孝治は返す言葉を見失った。

 

 どう言った趣味があるかは知らないが、美奈子は日頃から白コブラに変身して、未来亭の天井裏を徘徊していた事実が、きょうのきょうになって判明したわけ。それも今まで『知らぬが仏』であった話だが、恐らくは孝治の部屋の真上も、何度か通過をしていたはずとなる。

 

 孝治は顔面から、今度は血の気が五十キロリットル分、失せていくような思いがした。


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