前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記\』

第三章 南から来た大海賊。

     (11)

「ほんま、無粋なお方どすなぁ〜〜☹」

 

 白コブラの変身を解いて、美奈子は人の姿に戻っていた。しかし彼女は椅子に踏ん反り返り、なにやらご立腹のご様子。その一方で孝治は、氷の入った氷嚢をおでこの上に乗せ、本当は美奈子の専用であるらしいベッドに寝かされていた。

 

「うちがすってんで(京都弁で『少し』)軽う挨拶しただけやおますんに、せわしのう眠りはるなんて、いったいうちがなにをいちびった(京都弁で『ふざけた』)とおっしゃいまんのかいな♨」

 

 美奈子はどうやら、自分の所業を棚に上げまくっているようだ。

 

「あれが軽い挨拶っちゃね!」

 

 ベッドで寝ていても、孝治はとっくに目が覚めていた。しかもなんだかんだとは言っても、美奈子変身の白コブラとは、それなりに長い(コブラの体長とは違う意味で)お付き合いなのだ。だから美奈子が変身をするコブラに対する、多少の免疫はできているつもりでいた(だから気絶から覚めるのも早い)。

 

 だけどそれでも、奇襲攻撃に対する心構えだけは、いまだにできていなかった――と言う話。

 

「おれの毒ヘビ嫌いばよう知っちょうくせに、いつもかつも脅かしてくれちゃってからにぃ! それに今かてなんね!」

 

「今も? なんどすか?」

 

 平然と応じ返してくれる美奈子に、孝治は上半身を起き上がらせ、右手の人差し指を向けてがなり立てた。

 

「仮にもやねぇ、他人の前で自分の裸ば、そげん堂々と見せびらかすもんやなかばい!」

 

「おや? あきまへんのかいな☻」

 

 孝治から一番大事な指摘を受けたと言うのに、それでも美奈子は、まったくの澄まし顔。

 

 白コブラから人間に戻れば、美奈子は当然、一糸も身にまとってはいなかった。変身魔術は術者の肉体だけに作用して、衣服にまでは力が及ばないからだ。

 

 その理由を考えれば、これは一応仕方がないとも言えるだろう。問題は、孝治の目覚めを前にしても服を着ようとはしない、美奈子の振る舞いにあるのだ。

 

 なお、これはあとで友美から聞いた話なのだが、孝治の寝ていた間に彼女が代行をして、海賊退治の件を美奈子に話していたと言う。だけどこの間も美奈子はずっと、服を着ないで裸のままを通したらしい。

 

「美奈子さんっち、ほんなこつ奔放な性格っちゃねぇ♋ これもわたしの想像以上っちゃよ☺」

 

 これもあとで語ってくれた、友美の談。もちろん目が覚めたとき、正気を取り戻してすぐに拝んだ美奈子の全裸に、孝治は不覚にも鼻血を垂れ流した。

 

「うわっぷ! 友美、ちり紙!」

 

「う、うん!」

 

 友美が念動魔術で、部屋にあった紙箱からティッシュを浮遊で取り出した。そんな光景を前にしても、美奈子はしゃあしゃあとほざくだけ。

 

「ほんまかないまへんなぁ〜〜☻ おまはんとうちはおんなじ女性同士でおますさかい、別に恥ずかしゅうすることはありまへんのやで☺」

 

 だが今の発言には、実は重大な問題点が含まれていた。

 

「なん言いよんね! あんたはおれがほんとは元男っちゅうこと、とっくに知っとんやろうも! これもヘビんときとおんなじで、わざとそげん言うて、おればからかいよんのやろ!」

 

 このとき、くちびる💋の端を微妙にニヤッとさせた美奈子の表情が、孝治の指摘を見事に裏付けていた。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system