『剣遊記 番外編W』 第四章 たったふたりの大海戦。 (8) 「おれは魔術師の生体実験で、こがんな体にされちまったんばい♨ そんけん、せっかくこがん利用価値んある体になったとやけ、こればおれん思うとおりに使って、なんが悪かとやぁ!」
誰も尋ねてなどいないのだが、腑阿呂が勝手に、おのれの身の上話を始めてくれた。しかし清美にとっては、これはただのウンザリ話でしかなかった。
「まあ、ぬしゃいわゆるホムンクルス{魔造人間}の一種っちゅうことやね☛ 早よ人間になりたかぁ〜〜の同種やね☞ それはそれでぬしの勝手なんやけどねぇ、ぬしはそれば同情してほしかっちゅうとね? 同情したかて金はやらんけね✄」
などと軽く一蹴。さらに罵倒を続けてやった。
「おまけにそん利用法っちゅうのが、けっきょく悪行三昧ばっかやなかねぇ☠ ぬしなんぞ、一生ペラペラの一枚紙にでもなって、そんで紙飛行機になって空ん上でプカプカ飛んどりゃよかとばい☢☻」
「せ、せからしかぁーーっ! うおーーっ!」
もはや意味など皆目不明。しかもまったく必要性の無い雄叫びを、ここで腑阿呂が張り上げた。清美の挑発的言動の連発で、とうとう鶏冠{とさか}にきたようだ。この状況を見る限りでは、今まで見せていた余裕しゃくしゃくの態度は実は見せかけで、本当は意外に短気な性格だったのかも。
それはとにかくとして、腑阿呂が攻撃態勢のつもりか。体を丸めるように前倒させた。これは清美も徳力も、なかば予測していた行動であるが、腑阿呂の体が再び、先ほどの灰色をした、ジャンボカボチャ大の球形物体と化したのだ。
「来るばい、トクっ! 剣ば構えんね!」
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