『剣遊記 番外編W』 第四章 たったふたりの大海戦。 (6) そんなふたりが行き着いた通路の先に、ひとつの大きなドアが、デンと構えていた。
「なんね? 船長室やてぇ?」
そのドアには清美の読み上げたとおり。紙の表示(しかも手書き)が貼られていた。
「こりゃラッキーばいねぇ♡ たいぎゃ早よう、敵ん中心に来ちまったっちゅうことやね☀」
すでに一味を何十人も冥土へと送り込み(ほんとに死なせたわけじゃないよ☻)、それでもいまだ猪突猛進の興奮状態が続いている清美は、短絡思考でそのように結論づけた。
「こん部屋に麻薬の親玉があるっちゅうわけたい☆ こんで今回の仕事は完了ばいねぇ♡」
雑魚である用心棒や船員たちが大方片付いた今、早く決着へと取りかかりたい清美は、ドアノブを握って回すのも面倒だった。
ドッカァーーンッッと通路を駆ける勢いそのまま。ドアを右足で蹴破って、船長室内へと突入した。
「あっ……またおめいてからぁ……☠」
徳力が思わず目を閉じて嘆くとおり。実際清美はこの船内において、何十人もの怪我人を作ったのはもちろん、他にもあらゆる船の設備や壁、マストや帆などを破壊しまくっていた。だから今さらの感もあるのだが、事件が解決したところでこの船は、廃船の憂き目からは絶対逃れられんやろうねぇ――と、徳力は考えていた。
そんな心配症の相棒には振り向きもせず、清美は壊したドアから、部屋の中を覗き込んだ。
「ん? ここは船長室やなかばい♋」
彼女が気づいたとおり、部屋の中は藻抜けの空っぽ。船長どころか誰ひとりおらず。これが人の代わりと言えるのかどうか。陶器で出来た丸くて白い大型の壺が一個だけ、部屋の真ん中にポツンと置かれていた。
それ以外の家具も机も一切なしの状態で。
「なんや? あたいらはただ、ほっつき歩かされただけじゃん♨ じゃあ、こぎゃんなとこに用はなかばい✄」
捨てゼリフをひとつ吐いたあと、清美は踵を返して、通路に戻ろうとした。そのとき女戦士の勘に、なにかビビッと走るモノがあった。
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