『剣遊記 番外編W』 第四章 たったふたりの大海戦。 (3) そんなふたりのいる船倉に、大豊場が雇っている、十三人の用心棒が現われた。
「ぐへへへへぇ♥ いやがったばぁい♥」
「女やぁ、女ぁーーっ★」
「ガキなんざ、どがんでもよかぁ♪」
いかにも獲物が見つかってうれしいとばかり、口から涎を垂らしながらでのご登場だった。
手入れの悪い、錆びだらけの金属製鎧。なんの動物の毛皮製なのか、皆目わからない薄汚れた着衣。これでは彼らが、いかに落ちぶれた戦士のなれの果てであるかなど、ひと目見て明白と言えた。
「こんあんじゃもんら、清美さんば知らんなんち、モグリの戦士くずればいねぇ☠」
泣く子と地頭も道をゆずると言われる本城清美を前にして、好色の顔しか浮かべない彼らを見て、思わず徳力はつぶやいた。ついでに世の中、まだまだ広いもんばいねぇ――とも。
されどこの状況、清美からすれば、充分に加熱されたフライパンの油の上。まさに火の点いたマッチ棒を投げ込まれたような感じ。
「ほう、来たばいねぇ♡ 獲物がそっちから、わざわざあたいに狩られに来てくれるなんちねぇ♡ こりゃ探し回る手間が省けてええってもんばい♡♡」
こうなると完全に、清美の暴走は止まらなかった。
「そんじゃ行くばいねぇーーっ!」
相手が女と子供だけ(ドワーフは身長が低いので、そのように勘違いをされたようだ)だと思って、油断の極致にあったのだろう。そんな用心棒どもの先頭に、清美は目にも止まらぬ飛び蹴りを決行! ガスッと無精ヒゲだらけ野郎の下アゴを、グシャッと粉砕してやった。
「あぶぶぶぶぅ〜〜!」
アゴの骨を砕かれた(おまけにベロまで噛み切った)先頭がよろめき、そのまま仰向けにバタンキューとなった。
「な、なんや!」
「お、おい!」
あまりに突然の電光石火的早業だったので、うしろの用心棒どもは、事態の把握がまったくつかめていなかった。そんな彼らに、清美はわずかばかりの隙も見せなかった。
「キョロキョロすんやなか! あたいはここばってん!」
清美は剣を抜くのも面倒と、素手の徒手空拳で、用心棒たちの腹や顔面をバシバシと叩きまくった。
「ひでぶっ!」
「あべしっ!」
「やぶらぎっ!」
「おるぞっ!」
それこそ屋根瓦を十枚。一挙に破壊できるほどの鉄拳乱れ打ち! 用心棒どもが抵抗する暇もなく前歯を折られ、鼻血を噴き出してぶっ倒れた。
これにて十三人いたはずの彼らが、瞬く間に半分以下の五名となった。
「あ、相手は……女ひとりやなかねぇ……☠」
「そげなアホなぁ! オレたちゃ夢ば見とうとねぇ!」
「夢やなかぁーーっ!」
さらに叫ぶ清美の回し蹴りが炸裂! ドガッとひとりを眠らせたあと、今度は返す刀で、ふたりの下っ腹をガスッ グシャッと、両手でもって秒速の拳を叩き込んでやった。
あえなく昏倒した彼らは、この際これ以上の災厄を被らなかっただけでも、むしろ幸せと言えるかもしれなかった。なぜならまだ残っているふたりに、最後の不幸が襲いかかったからだ。
「せからしかぁーーっ! 早よ倒れなっせぇーーっ!」
こうなれば叩く蹴るはもう飽きたとばかり。清美は大の男ふたりの両足をガシッと鷲づかみにして、そのまま強引にジャイアント・スイングをやらかした。
「ぎょえええええええええええっ!」
「おらぁーーっ! 飛んで行きんしゃーーい!」
頭頂部に血が昇り切るまで振り回したあげく、清美がその手を、パッと離した。そのおかげでバッキーーンと、船倉から船の壁をぶち破って、外の世界へと飛び出す始末。ドッボオオオオオオンッと、海面に投げ捨てられる結末となった。
彼ら用心棒たちの不幸の原因は、まさに雇い主である大豊場から、乱入した敵が悪名高い(?)獰猛女戦士――本城清美だという事実を、まったく告げられていなかったからであろう。
彼らの冥福を祈って合掌。
だけども清美としては、高が十三人程度をやっつけただけ。これでは全然物足りない気がしていた。
「泣く子はいねがぁ〜〜やなか☀ 敵ぃ〜、敵はいねがぁ〜〜☜☝☞☟」
新たなる戦いの相手を求めて船内をさまよい歩き、その鬼気迫る後ろ姿はまるで、東北は秋田県に伝わる『なまはげ』に、とてもよく似た状態となっていた。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |