『剣遊記 番外編W』 第四章 たったふたりの大海戦。 (15) 「ああっ! 誰もおらんっち思うたらぁーーっ!」
ようやく甲板に上がった清美の瞳に、逃走を図っている大豊場たちの姿が写った。ちなみに清美は大豊場の顔を、今初めて拝見したわけである。
「清美さん! あいつらとうにボートで逃げよりますばい!」
遅れて甲板の手すりまでたどり着いた徳力も、今さらわかりきっている事態をわめいていた。それと同時にドワーフの戦士は、逃げた大豊場一味よりももっと重大なる事態を、清美よりも先に気がついた。
「わわわぁーーっ! あれは爆薬ばぁーーい!」
「ぬわにぃーーっ!」
清美も徳力が右手で指差す先に顔を向けた。見ればそれは、甲板上に立つ太いマストの柱に、これまた太めの縄でしっかりとくくり付けられている、大型の木樽であった。しかもその蓋の所から長いヒモ――つまり導火線のような物が伸びていた。
それが今まさに、火花を放つ先端が、樽に迫ろうとしている場面だったのだ。
「清美さん! あん中は絶対爆薬ですたい! あいつらボクたちもろともかじめよう(熊本弁で『片付ける』)と、こん船ば爆発させるつもりなんですばぁい!」
「わかっとーーばい!」
悲鳴を上げる徳力に、清美は瞳を血走らせて一喝した。
「そぎゃんやったら、早よ導火線の火ば消すなりなんなり、早よすりゃよかろうがぁ! てれぇっちしとんやなかぁ!」
「は、は、は、はい!」
事ここまで到れば、もはや考えるに及ばず。清美と徳力のふたりで、甲板の上を走る導火線の火を消しにかかった。しかし、いくらバンバン踏んでも叩いても、導火線の火はビクともせず。ただまっすぐに、樽へと向かうだけだった。
「いっちょんいかんばい! こん火ば消せましぇん!」
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