『剣遊記 番外編W』 第四章 たったふたりの大海戦。 (13) 「トクぅ! どぎゃんするやぁ!」
飛んでくる無数の大小灰色球体を必死になって避けながら、清美はもはや、剣を振り回すしか対抗手段がなかった。そんな彼女に向かって徳力は、かなり前向きで、建設的意見を叫んでやった。
「こぎゃんなったら、一時退却しましょう! こん部屋ん中じゃあ、ボクたち完全に不利ですばい!」
これがふだんであれば、目上(?)である女戦士から、激しく怒鳴り返される場面であろう。
『敵に背中ば見せとうなか!』とか言って。
しかしさすがに今は、意地を張っていられる状況ではなかった。清美もそこは、わかっていた。
「わ、わかったぁーーっ! そぎゃんするぅーーっ!」
そこのところの分別は、豪快な性格である清美とて、ちゃんとついているのだから。
「とにかく行けぇーーっ! 逃げぇ……やなかぁ、戦術的撤退なんやけねぇ!」
セリフの最後部分に負けず嫌いとプライドを込めて、あとは自分が壊したドアを目指して駆け込むだけ。
豹よりも俊足だと言われている駆け足で、清美が先に部屋から飛び出した。
「清美さぁーーん!」
一方こちらはゾウガメ並みと言われる鈍足で、徳力があとを追った。それからチラリと、徳力はうしろを振り返った。
「やっぱついて来ようばぁーーい!」
無数の超小型灰色球体の大群が、完全に意思あるモノの行動で、ふたりのあとを追ってきた。しかもピョンピョンと自力で跳ねながら、集合や合体の繰り返し。
「わわぁーーっ! またまた変形しよったばぁーーい!」
徳力の見ている前で、無数の球体群が集結。今度はブーメラン状の直角物体へと変わっていった。それが自分で空中回天しながら、清美と徳力に迫ってきた。
「ほんなこつこいつ、化けモンですよぉーーっ!」
「よっしゃ! もうすぐ上に出られるけんねぇーーっ!」
もはや半分泣き顔😭の徳力。その前を走る清美は、事態打開の方策をなにも示さないまま。一目散で甲板に上がる階段を駆け上った。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |