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『剣遊記 番外編W』

第四章 たったふたりの大海戦。

     (12)

 清美が斬ったモノは徳力を縛っていた、ホムンクルス変身のロープであった。しかも相棒の体には、まったく切り傷のひとつもなし。清美の腕は、まさに本物なのだ。

 

「あ、ありがとうございます! 助かりましたばい☺」

 

 思わずの他人行儀で、徳力は立ち上がってからペコペコと頭を下げた。しかし清美のほうは、これに応じている余裕はなかった。

 

「そぎゃんどころやなか! こいつやっぱ死んどらんばい!」

 

「あっ……ほんなこつ!」

 

 言われて徳力は床を見た。たった今切断されて足元に落ちているロープと、細かな破片になっているカケラたちが、これまたグニョグニョとミミズの大群のように蠢いていた。

 

 やがてそれらが、再び変形。一個一個が小さな灰色の球体となり、床の上でピョンピョンと、自力で弾み始めた。

 

 つまり腑阿呂は、いまだに健在なのだった。まるで無数に散らばるビー玉のような状態で。

 

「ほんなこつとつけむにゃあやっちゃでぇ! どうせどぎゃんしたかて死なんとやったら、もう遠慮もなんもなか! こぎゃんなったらドンドンひちゃかちゃさせてもらうったいねぇ!」

 

 もはや開き直りの境地しかない清美が、床に散らばる無数の小型灰色球体を、ドシンドシンと両足で踏みつけた。

 

 もちろんたちまちペッチャンコ。床の上に何十個もの、灰色の円形物が貼り付いた。

 

「てれぇっちしとらんで、トクも踏むんばい!」

 

「は、はい!」

 

 徳力も清美から言われ、小球体をバンバンと踏みまくった。

 

 ところが踏まれた球体のほうは、これがまた、全然平気な様子でいた。それはふたりから踏まれて床でペッチャンコになっても、すぐにまたもや自力で球体へと戻り、元どおりにピョンピョンと跳ね回るのだ。しかも段々と、その数を自分で増やしてもいた。

 

「やおいかんです、清美さん! こいつ細胞分裂で増えてくばっかしですけぇ!」

 

「あくしゃうつーーっ!」

 

 徳力と清美の絶叫どおり、小型灰色球体の群れは、無限に増殖を繰り返していた。その一個一個をよく見れば、まさに自分で勝手に分裂。一個から二個。二個から四個。さらに四個から八個という風に、次々と仲間を増やしているのだ。

 

 元はひとりの人間なのだが。

 

 おまけにその大小も、てんでバラバラ。さすがに元であるジャンボカボチャ大は存在しないが、それでもリンゴ大からピンポン玉大。それからビー玉にパチンコ玉。仁丹大まであるようだ。

 

 これこそまさに、千差万別!


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