『剣遊記 番外編W』 第四章 たったふたりの大海戦。 (11) なんと今度は二本の長いロープとなり(やはり灰色)、清美と徳力に向かって、ビューンと伸びてきた。
「わわっ! なばんごつ気色悪かぁ!」
「わひぇぇぇぇぇっ!」
そのロープがあまりにも異様な姿なので、清美も徳力も、思わずだが隙だらけの様となっていた。すぐにふたりの体に、それぞれ一本ずつ。あっと言う間のグルグル巻き。そろって床の上に、バタリと倒れ込んだ。
「こんいひゅうもんがぁ!」
「や、やおいかんですばぁーーい!」
このロープは明らかに意思の力でもって、清美と徳力を雁字絡めにしていた。
このまま一気に、窒息させる気なのだろうか。だけど清美の底力とて、半端な実力ではないのだ。
「ぬしゃ、はうごつやってくれっじゃねえかよぉーーっ!」
体をきつく縛られたままの清美が、鍛え上げられた全身の筋肉をフル可動! そのまま二本の足を跳躍させて、元どおりにピョンと立ち上がった。
寝ていた体勢から簡単ではなかったが、それでも見事に立ち上がったのだ。やはり清美は、聞きしに勝る女豪傑であった。
だけどもちろん、これで反抗が終わるわけではない。
「まっごあくしゃうつぅーーっ!」
清美が全身の筋肉に、再度渾身の力を込めまくった。
「うおおおおおおおおおおっ!」
それから盛大なる雄叫びを上げ、両手両足を大の字に一気大伸ばし! するとその筋力に、ゴムの収縮が限界まで達したようだ。全身に巻き付いていた灰色ロープがブチブチブチィーーッと一瞬にしてちぎれ飛び、小さな細切れとなって、周囲にボトボトとばら撒かれた。
「す、凄かぁーーっ!」
この光景に徳力は、改めて女戦士の底力を再認識した。ところでその徳力自身は、いまだに縛られたままの状態。そんな彼の目の前には、ちぎれ飛んだロープの破片が、あちらこちらに散らばっていた。それから清美が、声を大にして叫んだ。
「トクぅ! そこば動くんやなかぁーーっ!」
「えっ?」
見れば剣を上段に構えている清美が、それを今にも振り下ろそうとしているところだった。
「は、はい!」
無論徳力は、清美を信じていた。だから『動くな✋』と言われて、正直に目を閉じるだけ。それほどに健気な姿勢のドワーフに向け、女戦士が一気にバザッと斬りつけた。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |