『剣遊記 番外編W』 第四章 たったふたりの大海戦。 (10) 「こんだらがぁ! こぎゃんうっとうしか敵とやり合うなんち、あたいかて初めてばぁーーい!」
ここで極めて珍しく、弱音らしいセリフを吐く清美であった。しかしもちろん、転んでもタダでは起きないところが、彼女の座右の銘でもあるのだ。
「まっ、こぎゃんなったらよか経験ばさせてもろうたっち思うて、とにかく、きえーーっ!」
自分に向かって飛んでくる灰色球体をひとにらみ。剣を大きく上段に振り上げた。
それから見事! バスッと両断に真っぷたつ! 球形から半円状のお椀{わん}型となった二個の物体が、コロリと床に転がり落ちた。
「こ、これで……死んだとやろっか?」
「さ、さあ……わかりましぇんばい……☁」
恐る恐るの思いで、清美は徳力と並んで、落ちた物体に近づいてみた。その半円の断面は、これまたツルリとした灰色の表面になっており、血の一滴も流れていなかった。つまり改めてふたりに、大きな疑問を生じさせる結果となったわけ。
「いってえ……こいつの脳味噌っとかはらわたっとか骨っとか、どぎゃんなっとうとや?」
「こ、これもぉ……ボクにもわかりましぇん……☂」
そんなふたりが見ている前だった。
「き、清美さん! こいつかたちがまた変わりようですばい!」
「なにぃ!」
徳力が驚き顔で飛び離れたとおり、二個のお椀型の物体が、それこそ粘土のように自分で自分をこねくり回すようにして変形。見る間にふたつの灰色球体と化していた。
先ほどがジャンボカボチャ大であったのだから、今度は約半分の体積ぐらいで、一応スイカ大といったところか。
「こりゃやおいかんばい! 半分になっても生きとうけ! なんちゅう生命力なんねぇーーい!」
清美も慌てて、剣を構え直した。そこをひとつでも厄介だったのに、ふたつに分かれた灰色球体が、やはり部屋の中を縦横無尽に弾み回した――かと思ったら、二個の灰色球体がひとりで勝手に、それぞれ蛇のごとく細長いヒモ状に変形した。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |