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『剣遊記[』

第四章 見よ! 奇跡の大合体。

     (7)

 火口の斜面をすべるようにして下りてくる人影に、どうやらようやく気がついたらしかった。フェニックスが長い首をそっと上げ、走ってくる三枝子に目を向けた。

 

 ただしその目は、エサを探し求める野生の鳥のモノではなく、高い知性を感じさせる、賢者のような眼差しをしていた。

 

 このような風格の漂うフェニックスである。そのためなのか、言われもなしに自分へとまっすぐ向かってくる三枝子に対し、特になんの咎めも行なおうとはしなかった。

 

 そのフェニックスがしゃべった。

 

『先ほど地上でお見かけした人間ですね☞ うちの聖域に近づいてくるあーたは、いったい誰なのですか?』

 

(これは声やなか! あたしん頭に直に訴えてきよるとばい!)

 

 三枝子は即座に気がついた。ふとうしろを振り返れば、火口の上の孝治たちも、なにやらとまどっているように、周りをキョロキョロとしていた。これは三枝子にも聞こえた声が、同時に上まで伝わったからであろう。

 

 孝治たちの耳にも届いた発声は、実際にフェニックスが声を出したわけではなかった。三枝子は声の正体にも、すぐにピン💡ときた。

 

(これは精神波ばい!)

 

その精神波が周囲にいる者たちの頭の中へも、直接伝わっていたのだ。必死で接近を試みる三枝子だけではなく、山頂から固唾を飲んで見守っている孝治たちの脳まで届くところが、その精神波の巨大な威力を感じさせた。

 

 だが、これほどの威力がある精神波にも、まったく二の足を踏まず。三枝子はフェニックスの間近で立ち止まり、堂々と返事を戻してやった。

 

 完全なる無視を決め込まれるよりは、相手になんらかの反応があったほうが、断然良いに決まっている。これで少なくとも、フェニックスが自分の話を聞いてくれるだろう。

 

「あたしん名前は畑三枝子です! 見てんとおりばってん、ちっちゃか人間です!」

 

『そぎゃんちっちゃかっちゅう人間が、うちになんの用なんですか?』

 

(きゃっ、さすがは阿蘇暮らしが長いフェニックスばい♋ しっかり熊本弁に染まってからぁ♋)

 

 この思いは一応、心の中で封印しておく。三枝子は話を続けた。

 

「多くは申しませんけど、あなたは到津福麿さんば御存知ですかぁ!」

 

 三枝子の問いに、フェニックスは少しだけ、小首を右に傾げる動作を見せていた。やがて、記憶の片隅から、その名を探り当てたようである。

 

『ええ、よう知っちょります✍ 確か、大陸からいらっしゃった、銀のドラゴンやった方でしたなぁ✈』

 

 到津の名前が通じたので、三枝子は少しだけど安堵感を覚えた。しかしここで、話が脇道にそれてはいけない。三枝子は即、本題を切り出した。

 

「あたしはそん到津さんからの紹介で、あなたば訪ねてここまで来たとです! そん理由は、あたしには病気の母がおるとです! やけん母ば病から救うには、どげんしたかてあなたの血が必要なんです!」

 

 三枝子は一気に話をまくし立て、フェニックスが見ている前で、白い布を鎧の懐から出して、パッと広げて見せた。その布は以前に孝治や清美たちにも見せた、フェニックスの血を含ませるための、白い布切れだった。


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