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『剣遊記[』

第四章 見よ! 奇跡の大合体。

     (5)

「はい、着きましたっちゃよ✌」

 

 頂上に到着と同時に、裕志と友美が息をそろえて、『浮遊』の術を解消した。

 

「やったっちゃねぇーーっ♡」

 

 解術をしてすぐに、孝治は両足を地面に着地させた。ここで大地の頑丈さの有り難味も、改めて実感する。

 

 先ほども記したとおり、上昇中は当然ながら、足の下にはなにも無い(だから高所恐怖症の方には無理)。いくら魔術で安全が保障されているからとはいえ、これがふつうの人でも精神安定上いかによろしくないか、誰にでも容易に想像ができるはずである。

 

 それはともかくとして、根子岳の頂上にある噴火口は、意外すぎるほどの規模と広さがあった。

 

「うわっち! 凄かぁーーっ♡」

 

 孝治は思わず、素っ頓狂な声を張り上げた。しかも活火山である阿蘇連峰の中で、唯一活動が休止中であろうという話。なので広大な火口からは、噴煙が少しも上がっていなかった。

 

 これならフェニックスが根子岳を安息の場に選んだ理由が、よくわかるというもの――とはいえ、巨大な火口の間近は、やはり不気味な気持ちも感じるものだ。

 

 今すぐ噴火を起こすわけでもないだろうが、世の中に休火山はあっても死火山は存在しないのだ。だからここも阿蘇連峰のひとつである以上、いつ爆発をしても不思議はない。ただし、火山噴火には必ず兆候(小さな地震や噴煙の増加など)があるはずなので、今のところは大安心と言っても良いだろう。

 

 ずっと以前に経験した、霧島の噴火とは、今回は違っているようなので。

 

 しかし、そのような火山に関する蘊蓄は、今の三枝子にとっては、恐らく関心の外のはず。彼女の瞳は、この頂上のどこかにいるはずのフェニックスを、ただひたすらに探し求めていた。

 

「……フェニックスは、いったいどこやろっか?」

 

「どうやら、あそこみたいばいねぇ☝」

 

 周辺を見回す三枝子の右肩をポンと左手で軽く叩き、清美がある一点を右手で指差した。

 

「ああっ!」

 

 すぐに三枝子の瞳にも、その姿が写ったようだ。根子岳の火口の底で、黄金色――もしくは七色に光り輝く巨大な鳥が、不埒な闖入者どもには目もくれず、一心に自分の羽根と羽毛を、くちばしで整えている光景が。

 

 それは初めて孝治たちの頭上を飛び去ったときとまったく変わらぬ、優雅と悠然――さらに加えて高慢さも重ね合わせたような、気品と気高さのままだった。

 

『綺麗っちゃねぇ〜〜♡』

 

 たぶん、産まれて――もとい生きていたころと死んでからも合わせて、初めてフェニックスを目の当たりにしたであろう。涼子が感激の口振りでつぶやいていた。

 

 もちろん初めての目撃なら、孝治と友美も同じ。ただし友美は、恐らく涼子と同意見なのであろうが、孝治の場合は、少々違っていた。

 

「う〜ん、見たらなんか、ご機嫌良さそうみたいっちゃねぇ☺ これやったら話ば着けるとやったら、今がチャンスかもしれんばい✌」

 

 素直な感動は抜きにして、早くも現実の問題へと立ち返った。

 

『もう! 孝治ったら、もうちっと美しいモンに心ば引き寄せられんと!』

 

「なんがね?」

 

 涼子がふくれっツラとなって、孝治に文句を垂れてくれた。孝治はそんな幽霊娘を、ちょっと可愛いっちゃねぇ〜〜と、思ったりもした。


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