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『剣遊記[』

第四章 見よ! 奇跡の大合体。

     (3)

「うわっちぃ……こげなとこば登るんねぇ☠☢」

 

 遅れて孝治たちも、急勾配登りに挑戦した。しかし瞳の前にそびえるけっこうきつそうな断崖は、孝治も思わず尻ごみするほどのド迫力があった。

 

 最初はそれほど高くはないと思われていた根子岳であった。それが、いざ間近で拝見すると大岩がいくつも転がり、登山者を簡単には寄せ付けない地形となっていた。

 

「うわぁ〜〜、怖かぁ〜〜☠☹」

 

 裕志を始め、男性陣(孝治含む。いったいどっちなんだよ!)がそろって怖気づく中だった。清美ひとりが、見事な怪気炎を吐き散らしまくっていた。

 

「当ったりめえやろうがぁ! 三枝子かてひとりでもうあぎゃんてっぺんまで登っとうとばい! それなんに男んぬしらがそぎゃんだらしなかこつでどぎゃんすっとやぁ!」

 

 実際に三枝子は、すでに山の中腹辺りにまで達していた。そのお手並みは先ほどのイヌワシの死骸回収と、ひなワシ保護の際の崖登りで、見事に披露されていた。

 

 だがやはり、凄いロッククライミングであることに間違いはなかった。

 

「いったい三枝子さんち……どげな生い立ちやったんやろっかぁ……☁」

 

 孝治は今回の冒険が終了したら、三枝子にどのような育ち方をしたのか絶対に訊いてみようと、固く心に決めた。

 

「……で、でもぉ……あげな山っち……ぼく登れんちゃよぉ……☠」

 

 ここで毎度の定番であるが、ノミの心臓である裕志が、やはり一番にビビッていた。こいつには先ほども孝治を感心させた、それなりの魔術力があるはずなのに、それに反して根性と体力はからっきしなのだから、本当に情けない気持ちに全員を導いてくれた。

 

 ついでだけど徳力も、ここでは音{ね}を上げるほうに回っていた。

 

「右に同じです……はい……☁」

 

 清美はそんな弱腰である男性陣たちを、完全に見下しの目線で見つめていた。

 

「ったくやねぇ☠ ほんなこつぬしら、いっちょんいかんばいねぇ♐ ぬしらほんなこつ小股にキ○タ○付いとんのかぁ? もっとがまだせやぁ♨」

 

 まさにまったく女性らしくもない暴言で、まくし立てるばかり。

 

『なんか完ぺきに、ここじゃ男女逆転しとうみたいっちゃねぇ☻』

 

 涼子がこっそりと、孝治の右耳に耳打ち。ついでにしっかりと、からかうことも忘れていなかった。

 

『でもこげなときって、孝治はどっちに付くんやろっか? ずいぶん中途半端な位置っち思うっちゃけど☻☻』

 

「しゃあーーしいったい!」

 

 その件はまあ、今は置いておく(置くんやなか! 孝治談)。とにかく清美から散々言われ、裕志と徳力は、すっかり意気消沈中。ところがひとり涼しい顔をしている荒生田が、ここで清美をなだめつつも言ってくれた。

 

「まあまあ、そげんふたりばっかいじめんでもよかろうも☺ 要はみんなで、こん山ば登ることができればよかっちゃろうが☝」

 

「そうばってん、わっどんらがビビッとんのやけ、しょんなかたい♨」

 

 すぐに噛みつく清美だが、荒生田はその攻勢をかわすようにして、黙りこくっている裕志に顔を向けた。

 

「裕志かてこげん言われて歯痒かったら、体力以外で役に立つとこば見せたらよかっちゃよ✈ 例えば『浮遊』ん術なんかがあろうも✌」

 

「あっ、そうけぇ✎」

 

 先輩から言われるまで、本当に気がつかなかったらしい。裕志がポンと、両手を打った。さらに孝治の左隣りにいる友美も、ポンと両手を打ち鳴らした。

 

「うわっち!」

 

「なんねぇ、それやったらわたしかてできるっちゃよ✌」


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