『剣遊記[』 第四章 見よ! 奇跡の大合体。 (2) そんな地上を走る一般人たちの苦労など、知るよしもないだろう。フェニックスが根子岳の頂上近くに、悠々とした仕草で着地した。その様子は地上から追い続けていた孝治たちからも、まるで手に取るようによく見えた。
「やっぱしあの山に棲んじょったんやねぇ☝」
幸いにしてはぐれる事態とはならず、先頭を走っている三枝子が、感動丸出しの様相でつぶやいた。
事ここまで到れば、もはや迷いなど、完全にゼロの境地であろう。あとはフェニックスの間近にまでなんとかしてたどり着き、誠意を持って話し合いを行ない、その血を分けてもらうだけなのだ。
「待っとってや☺ フェニックスさん♐」
新たな決意を固め直したらしい三枝子が、孝治たちには振り返りもせず、根子岳への登頂を開始した。
ところが遠目にはなだらかだと思っていたが、実はかなりの急勾配な地形であった。だが、もはやそのような些細(?)な現状など、構ってはいられないようだ。
三枝子の肩には二羽のひなワシが入っている小物袋が、今も提げられたままでいた。これは地上に残して肉食獣の餌食になってはいけないので、そのまま持って行くようにしたのだという。
「ごめんね☹ もうしばらくの辛抱やけ☺」
三枝子がひなワシに、そっと声をかけていた。すると、先ほどエサを食べたばかりで満腹しているせいもあるかもしれない。二羽のひなワシは、まるで三枝子の言葉を理解しているかのように、袋の中でジッとおとなしくしてくれていた。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |