『剣遊記[』 第四章 見よ! 奇跡の大合体。 (22) この全員涙の様子を、涼子も孝治と友美のうしろから眺めていた。ただし涼子だけは周りの者たちとは違って、早めに自分の気持ちを落ち着かせていた。その理由は、あるひとつの疑問を、胸に抱いたからであった。
『ほんなこつ死んだとやったら……三枝子さんの魂、どこおるとやろっか? あたしが経験して知っとう限りでも、ふつう霊魂が体から離れても、しばらくは近くにおるもんやけどねぇ……☹』
涼子がこのような不謹慎極まるセリフをつぶやく理由も、彼女自身が自分の臨終の瞬間を、自ら鮮明に覚えていたからだ。それは長い間、病床に伏せていた自分自身が意識の薄れる寸前、涼子の死を認定する医師の言葉を、確かに聞いた記憶があった。
「ご臨終です」
そのすぐあと、高熱で燃えるようだった体が急に楽となり、まるで誰かに手を引かれるような気分になってからだった。いつの間にか自分がベッドの上に浮かんでいて、それから下で横たわる彼女自身と、泣き崩れる両親や曽根家の家臣たちの姿を、どこか他人事のように眺めていた。
次の日から、涼子は自分の通夜から葬儀までも、しっかりと見物した。
そんな自分の体験(?)と照らし合わせてみても、今回はかなり変だった。
『まさかっち思うっちゃけどぉ……三枝子さん、死んですぐ成仏したっちゃろっか?』
しかし涼子は、すぐに頭を横にブルブルと振っての自己否定。
『でも、いくらなんでも、それはなかっちゃよねぇ〜〜☻ だってどげん考えたかて三枝子さん、やり残しとうこといっぱいあるんやし……だいいち、フェニックスん血ばいっちょも手に入れとらんのやけ♋ この世に未練ばあり過ぎっちゃよ★』
このような調子なものだから、周りが号泣を続けている中、涼子ひとりだけが、もはや落ち着きの気分すらも超え、どこか冷めきった気持ちに達していた。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |