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『剣遊記[』

第四章 見よ! 奇跡の大合体。

     (21)

 三枝子の亡き骸は、広葉樹の茂る葉っぱの絨毯の上で見つかった。

 

 頑丈な幹と、やわらかい葉の重なりが幸いしたのだろう。三枝子の体のあちこちに、岩壁か枝葉で引っ掻いたような傷がたくさん付いているが、あまり出血をしている様子はなかった。

 

 だが、ピクリとも動かないその体を見て、誰もが彼女の死を疑わなかった。

 

「こぎゃん、おっこいつきな(熊本弁で『ふざけた』)話があるとかぁ! せっかく良かダチになれたとにぃ!」

 

 地面に下ろした三枝子の遺体(?)を前にしてひざまずき、清美が声を上げての大号泣を繰り広げた。

 

「清美さんのせいやなかとですよ☂ 肝心なときになんも手ぇ出せんかった、ボクの責任ですけ♐」

 

 徳力がそんな清美の左肩に右手を差し伸べ、涙声混じりで慰めようとしていた。

 

 実際あのときは、フェニックスの巻き起こす暴風に邪魔をされ、誰もが助けに駆けつけるどころか、立ち上がることすらままならなかった――かと言って、それが弁解になるだろうとは、やはり誰も考えてはいなかった。

 

 なんといっても、女性たちの危機になんの力も出せなかったことは、男子として生涯最大の痛恨事なのだ。

 

 そのくやしさの度合いで言えば、いつもはひょうきんな荒生田でさえも、今回は例外ではなかった。

 

「いんや、オレの責任ばい☢ こん中でいっちゃん年配のくせして、そん務めばいっちょも果たせんかったんやけ……☹」

 

 ふだんの荒生田であれば先輩風を吹かせて、すぐに責任逃れに走る場面――であろう。だがやはり、人の死が関わったとなれば、話はまったく違っていた。

 

「目の前の女ん子ひとり助けられんなんち……戦士失格もええとこやけ……✄」

 

 これもいつもの先輩らしくなく、先ほどの号泣とはうって変わった自嘲気味のセリフを、荒生田はつぶやき続けた。世に名の通った伊達男であり、遊び好きな好色漢のスタイルなど、今はどこにも感じられないほどに。

 

「先輩……☁」

 

 裕志と友美と孝治は、そんなサングラス戦士のうしろ姿をジッと見据え、堪えることなく涙を流し続けた。

 

 彼と彼女と、またその中間(?)とて、思いは荒生田とまったく同じ。目の前で三枝子を死なせてしまった悔恨で、今にも胸が張り裂けんばかりになっていた。

 

「こぎゃんなったら、あたいが三枝子の仇ば討っちゃるばい!」

 

 ここで泣きながら、清美が大声を上げての宣告を開始。

 

「あたいが三枝子ん意志ば継いで、フェニックスの血ばたっぷり採って、三枝子のお袋さんにプレゼントしてやるったい! フェニックスん野郎! 今度っちゅう今度ぁとつけむにゃあくれえただじゃおかんけぇ、しっかり覚悟ばしとくんばぁい!」

 

 セリフがだんだんと、過激化されていくような。しかし今は、誰も清美を止めようとはしなかった。その理由はこの場における全員が、程度の差こそあれ、思いは同じなのであるから。

 

 また、ヘタに口を出して、清美からしばき倒されるのを怖がった理由も、たぶんある。


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