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『剣遊記[』

第四章 見よ! 奇跡の大合体。

     (20)

 フェニックスが、そんな三枝子に応えた。

 

『それは仮死状態とはいえ、あーたの体には、崖から落ちるときにかかじった傷が、いっぱい付いちょうとです☟ だけん、そこにあーたの精神が舞い戻れば、その傷の痛みのショックで、逆にあーたの生命に重大な支障が起こる恐れがあるとですよ☠』

 

(ええーーっ! それじゃ生き返ったとたんに死ぬとですかぁーーっ?)

 

 死人が蘇生を果たした話も、三枝子はいくつか聞いた経験があった。しかし生き返ったとたんに、それが原因でポックリなどと言う話は、さすがに誰からも話された覚えはなかった。

 

(そ、それじゃ生き返る意味なんか、いっちょもなかやなかですかぁ!)

 

 もはや自分が話をしている相手が、恐れ多くもフェニックスであることですら、完全に度外視。三枝子は裸のままで、フェニックスに猛然と喰ってかかった。

 

 ここはさすがに、女格闘士の面目躍如といったところか。だけど、まるで返答をすでに用意済みといった感じ。フェニックスは悠然とした態度で、黄金色の翼を大きく広げてみせてくれた。

 

『ご安心ください☀ それば防ぐ方法があるとです✌』

 

(ほうほう?)

 

 三枝子は瞳が点の思いとなった。そんなポカンとしているだろう表情を、まるで諭{さと}してくれるかのようだった。フェニックスは、やわらかい口調で言ってくれた。その点はさすがに長く生きているだけあって、人の操作術にはかなりに長{た}けているようだ。

 

 それからいまだ、眉間にシワが寄る思いのままでいる三枝子に、フェニックスは口調をやわらかめから、解説調的なモノへと変えた。それも三枝子が度肝を抜くような、超ビックリなセリフを。

 

『あーたの傷付いた体に、うちが合体するとです☞ そぎゃんすれば、あーたの体の傷は一瞬にして治癒され、見た目にはごくふつうの蘇生としか思われんでしょう☺』

 

(ええーーっ! でも合体ってぇ……人間とフェニックスが合体できるとですかぁ……いったいどげんすっとぉ?)

 

 その前に、『ごくふつうの蘇生』って、いったいなんね? 問い返したい疑問は満載であったが、それは今は置いておく。とにかく三枝子は、うろたえの極致に陥った。それというのも人とフェニックスとの合体など、産まれてこの方、まったく聞いた記憶がないからだ。誰もがそうだろうけど。

 

 いったい合体することによって、なにが変わると言うのだろうか。

 

 そのような三枝子の心の動揺など、これまたまったくのお構いなし。フェニックスの体が、さらに輝きを増していった。それと同時にまた、全体の輪郭を、しだいにぼやけさせてもいた。

 

 そのぼやけた姿で、フェニックスが三枝子の問いに答えた。

 

『簡単なことですけ☆ 今ここにおるあーたとうちの精神が融合したあと、そのままあーたの肉体に戻ればよかとですから♐ では、参りますばい✈』

 

(ええっ! ちょ、ちょっと、心の準備ってもんが……あれ? あたしも光っとう!)

 

 慌てふためきながらも、三枝子は自分自身の体が発光を始めていることに気がついた。しかもフェニックスと同様に、輪郭までもが薄れかけていた。

 

(……そうたいねぇ〜〜、あたしもここじゃあ、精神だけやったんばいねぇ……♥)

 

 改めてフェニックスのセリフの意味を実感するのと同時だった。三枝子の心からは、迷いが消えた。

 

 もはや気持ちには、なんの躊躇も後悔もなし。すべてをすなおに受け入れる心境までの、これもひとつの変化と言えそうだ。

 

 暗黒の宇宙空間で、ふたつの光は重なり合い、お互いに渦を巻きながらでの融合が始まった。

 

 ふたつはひとつになった。


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