『剣遊記[』 第四章 見よ! 奇跡の大合体。 (14) 優雅なようでいて、実はかなり執念深い性格だったのだろうか。フェニックスはいつまで経っても、襲撃をやめようとはしなかった。
地上に人の姿が見える限り、絶対に攻撃の手――いや翼を緩めない。そんな気概すら感じるほどに。
これでは誰も、三枝子と清美の救出に向かうなど、まったく出来ようはずがなかった。
「くそぉ! これでおれたちもお終いっちゃあーーっ!」
風に吹き飛ばされないよう、地面に腹ばいをしている孝治は、空を見上げながら歯噛みをしてくやしがった。だが、孝治の左隣りでやはり腹ばいをしている友美は、少し違った考えを持っていた。
「そげんでもなかっちゃよ、孝治☝」
孝治はつい、声を荒げて言い返した。
「なしてねぇ! おれたちゃ今、史上最大の危機の真っ最中なんやけねぇ!」
それでも友美は、落ち着いたもの。上空にいるフェニックスを、腹ばいのままで右手を空に上げて指差した。
「そやかてあのフェニックス、さっきから飛び回っちょうだけで、それ以上なんもしてこんばい✐」
「……そう言えば……そうっちゃねぇ♋」
孝治もハッと気がついた。言われて気がつくおのれも情けないが、確かに友美の言うとおり。フェニックスは根子岳上空を何周も旋回して、風を巻き起こすばかりなのだ。それ以外には、なにも仕掛けてこなかった。
実際、神にも等しいと言われている力を持ってすれば、地上の人間どもを焼き払うなり踏み潰すなり、それこそフェニックスにとってはまったくの朝飯前のはずである。
「……ほんなこつ……どげんしてやろうねぇ?」
孝治も友美の指摘に同調を感じたときだった。一時行方不明となっていた涼子が、大急ぎの様子で飛んできた。
『孝治ぃーーっ!』
「うわっち! 涼子! 無事やったとね!」
それなりに心配をしていた孝治であった。しかし涼子のほうは、どうもそれどころではないらしい。幽霊とは思えない慌てぶり(?)で、孝治をとにかく急き立てようとしてくれた。
『無事もなんもなかっちゃよ! 今はあたしんこつよか、清美さんと三枝子さんが大変なこつなっとんやけ!』
その『大変なこつ』ならば、孝治だってわかっていた。
「知っとうっちゃよ! こっちかて早よ助けに行きたかっちゃけどねぇ!」
『やったら早よしてやぁ!』
恐らく涼子も、無理は承知で叫んでいるのだろう。その気持ちは孝治にも、ビンビンに伝わっていた。
今まさに、史上最大級の大危機が、ふたりの女戦士(清美と三枝子)に襲いかかっていたのだから。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |