『剣遊記[』 第四章 見よ! 奇跡の大合体。 (13) 「わひぇーーっ!」
「飛ばされるぅーーっ!」
まるで台風と竜巻が連合軍をしたような超旋風で、たちまち清美や荒生田たちの体が、遥か宙へと巻き上げられた。
「きゃあーーっ!」
「うわっち! 友美ぃーーっ!」
今にも上空高く飛ばされそうになった友美の右手を、孝治はガシッと右手で握り締め、ちょうど近くにあった岩に、左手でしっかりとしがみついて離さないようにした。さらにもうひとり――涼子も心配なのだが、この荒れ狂う暴風の中ではいったいどこにいるのか。まるで捜しようがなかった。
「たぶん……大丈夫っち、思うっちゃけどぉ……☁」
風は火口の底から山頂へ向かって吹きすさび、本物の火山爆発と同じように、瓦礫や粉じんを上空へと弾き出していた。
それでも孝治たちは幸運だった。なぜなら全員、遠方まで飛ばされず、火口の淵まで押し戻されただけで済んだのだから。
たとえ御都合主義だと言われようが、これぐらいの強運がなければ、戦士も魔術師もやってはいけないのだ。
そんな現場で孝治はつぶやいた。
「ああ……霧島んときば思い出すっちゃねぇ……☠」
「孝治、あんときのトラウマば治ったっち思うとったんに、また再発したんとちゃう?」
「ちゃうばい!」
いっしょに助かった友美の指摘に、孝治は慌てて頭を横に振った。
だが、今は孝治のトラウマどころではなかった。ひとりだけ、御都合主義の例外がいたのだ。
「ああーーっ!」
フェニックスの真正面に立っていた三枝子が、もろに旋風を受けていた。そのため小柄な体が紙のように飛ばされ、初めは孝治たちと同じで山頂まで押し戻されはしたものの、その勢い自体が止まらなかった。たちまち山腹の反対側にあった断崖から、遥か絶壁の下へと転がり落ちそうになっていた。
「きゃあーーっ!」
「危なかっ!」
間一髪! 清美が三枝子の右腕を、これまたガシッと両手でつかんだ。これでなんとか、転落だけは免れた。しかし三枝子の体が、断崖から宙ぶらりんの格好となっていた。
「ヤバっ!」
友美の手を握ったまま、孝治も現場に駆けつけようとした。だがその救援行動は、まったく叶わなかった。火口からフェニックスが舞い上がり、山頂で右往左往している孝治たちを、空から何度もつけ狙ってきたからだ。
『きゅあーーっ!』
もはや人語もかなぐり捨て、怪物の咆哮を上げて、フェニックスが山頂を旋回した。
いまだ飛び道具こそ放ってはいないが、噂に聞く限りでもフェニックスには、火炎を操る超能力が備わっているはずなのだ。従って空から火でも吐かれたときには、孝治たちに対抗手段は、まったくなし。誰もが地上に身を伏せるだけが精いっぱいで、その場からほとんど動けない状況に置かれていた。
そんな中でも清美は三枝子をつかんだ手の力を、決して緩めようとはしなかった。それどころかふだんの彼女ならば絶対に発しない、悲痛な叫び声を上げていた。
「あたいん手ばなにがなんでも離したらいけんばい! あんたには病気のお袋さんがおなはるんやけ、あんたがここで死んだりしたら、いったい誰がお袋さんにフェニックスの血ば持って帰るとやぁーーっ!」 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |