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『剣遊記[』

第四章 見よ! 奇跡の大合体。

     (12)

 この予想もできなかった清美の大活躍を、初めは火口の上から、ただ見ているだけだった。ところがなんと、黄金色に輝くフェニックスの全身の羽毛が、ハッキリと小刻みに震え始めている様子まで、孝治たちにはっきりと認識できるようになってしまった。

 

「やばっ! オレたちも行くっちゃ!」

 

「うわっち! おれもねぇ!」

 

「ひえええええっ!」

 

 明白なる事態の悪化を、さすがに先輩戦士らしく感じ取ったらしい。荒生田が左右の手で孝治と裕志の手を無理矢理握って、一目散に火口へと駆け下りた。

 

「ああ……ボクも行かんといけんばいねぇ……☹」

 

 もちろん徳力も、あとから自発的に続いた。いつものワンパターンとはいえ、きょうも姐御――清美の尻ぬぐいを行なうためにも。

 

「孝治ぃーーっ!」

 

 友美も魔術で自分の身を浮かせ、すべるような感じで火口を滑空。先行する四人を追ってきた。

 

「清美ぃーーっ! 無茶すんやなかっちゃけねぇーーっ!」

 

 荒生田はこれで、助太刀のつもりだったのだろう。しかし打ち合わせもなしのよけいなお節介は、いつの時代でもかえって逆効果をもたらすに決まっているもの。

 

「うわっちぃーーっ! やけん言わんこっちゃなかぁーーっ!」

 

 別に誰もなにも言っていないのは承知のうえで、孝治は絶叫した。なぜならフェニックスが剣を抜いている(荒生田ひとりが先行して火口に下り、すぐに剣を抜いた)人間たちの新たな乱入に目を剥き、怒りの感情を爆発させたからだ。これに三枝子も、超驚いた感じ。

 

「ああっ! みんな、今来ちゃ駄目ばってぇーーん!」

 

『やっぱり! やっぱり! わっどみゃうちば狩りに来たとですねぇ!』

 

「ち、違うとです! こん人たちは、ただあたしの旅の同行ばしてくれただけで、あなたば狩る気なんかいっちょもなかとですよぉ!」

 

 三枝子が一生懸命に弁解するが、もはやフェニックスの耳には届いていないようだ。

 

『まっごあくしゃうつぅ! こんおっこいつきな(熊本弁で『ふざけた』)人間どもぉ! 早よこっから消えりんしゃーーいっ!』

 

「うわっちぃーーっ!」

 

 孝治はたまらず、今度は本物の悲鳴を上げた。怒りに身を震わせたフェニックスが巨大な翼を羽ばたかせたとたん、猛烈な暴風が火口内に荒れ狂ったからである。


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