『剣遊記[』 第四章 見よ! 奇跡の大合体。 (11) 『きゃっ! なんねぇ!』
フェニックスには自分の姿は見えていない――と思い込み、安心しきった気持ちで、涼子は傍観を続けていた。
そこへ突然の、清美の乱入。涼子はもしかしたら、ショックで心臓が停まるんじゃなかろっか――と、あとで孝治と友美に述懐した――ああ、もう停まってたか。
もちろん三枝子も驚いた。おまけにフェニックスまでもが、新たな闖入者の登場に、驚愕(としか思えない)目を向けていた。
鳥でも感情表現は豊かのようだ。
「あっ! 清美さん!」
『な、なんなのですか! あーたは! ここはうちの聖域なんですよ!』
無論周囲の困惑など、完全なるお構いなし。清美が火口の底に下り立つなり、ギロッとフェニックスをにらみつけ、得意の啖呵をぶち撒けた。
「せからしかったぁい! こんあくしゃうつ(熊本弁で『頭にくる』)わからず屋がぁ! こっちがせっかく下手{したて}ば出とうっちゅうんに、わらは自分の言い訳ばっかしよんやけぇ! 嘘か真実かわからんちねぇ! そぎゃん人に騙されんのが嫌っちゅうとやったらこん三枝子ん家{ち}までバッサバッサバッサっち飛んで、病気のお袋さんの見舞いでもしたらよかろうがぁ! わらは要するに、ぬしの弱っちいガラスん心ば傷付くんがおっとろしゅうてわけくちゃ言うて引きこもっとう、ただの弱虫小虫なただんもっこす(熊本弁で『頑固者、偏屈者』)なんやっちゅうの!」
『あ……あ……☢』
まるで速射砲のような清美の剣幕に、仮にもフェニックスともあろう者が、見事返す言葉を失っていた。
この世に生を受けて何十年――いやいやとんでもない。何万年生きてきたかは、定かではなかった。だが人間風情からここまで口撃されまくった経験は、恐らくきょうのきょうが初めてに違いないだろう。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |