『剣遊記超現代編T』 第三章 愛(?)と野望(?)の協奏曲{コンチェルト}。 (9) 「あいつら、こっちが危機一髪ってときに、無邪気に料理にパク付きやがってぇ☢♨」
孝江が文句のひとつも言ってやろうかと、アシスタントたちのテーブルに寄っていったら、すぐに涼子が気づいてくれた。
「あっ、おにい……え〜と、孝江お姉ちゃんだっけ? いったいどげんしたと? なんだかフグみたいに怒っとうみたいっちゃけど⛱」
涼子が一瞬、名前に迷った理由は、単純に四人を区別する名札が見えにくかっただけ。それでも孝江は言ってやった。
「おれ……あたし……まあ、姉が仕事で悶着してるってときに、妹はのんびり料理三昧っちゃあ、いい身分やねぇ⛐ 少しはこちらの気苦労も知れっちゅうと!」
そこに残りの三人も押しかけ、大方――というか当たり前で、全員孝江に同調した。なにしろ中身は、同一の人物であるからして。
「そうそう、もしかするとあたしたち……ヌード写真ば撮られるかもしれんちゃよ☠ いったい妹として、どげん思うね?」
「えっ!? ヌード!?」
さすがの涼子も、治代の言葉には度胆を抜かれた様子。瞳を見事に真ん丸とさせていた。
当然、四人のアシスタントたちも、一斉で元孝治たち四人に注目。
「先生っ! 脱ぐんですか!?」
特に和布刈など、場所柄を忘れての大きな声。
「ば、馬鹿っ! まだ決まったわけじゃなかと!」
こちらも一斉で、真っ赤な顔となった元孝治たち四人組。孝乃が慌てて、驚くアシスタントたちを鎮めるが、幸い会場内は現在もワイワイガヤガヤが続行中。今の和布刈の声は、周りにはほとんど響かなかったようだ。
その様子を見てほっとひと息吐きながら、孝乃が文句の言い直し。
「やけん、たった今話が来たばっかしで、実際はなんも決まっとらんと✄ でもぉ……実現したらどげんする?」
文句のついでに意見も訊いてみたのだが、涼子と四人のアシスタントたちは、おおむね前向きな感じであった。
「漫画家が脱いだらいけん、なんて決まりは無いからなぁ☕ 先生、いいんじゃないですか?」
まずは砂津が肯定的な考えを言ってくれた。
「そ、それは先生たちが決めることですけど……ぼくとしては……賛成です✋」
続いて井堀も好意的。口の両端から涎がこぼれているように見えるのは、質問をした孝乃の、瞳の錯覚であろうか。
とにかくこうなると話の流れは、全員一致の方向と言えるのかも。繰り返すが特に和布刈は、完全に話が決定しているような勘違いぶりを発揮していた。
「先生たち、四つ子の美人姉妹の漫画家っていう、まさに話題性充分過ぎな言わば究極のプロアイドルなんですから、ここはヌードでもなんでも挑戦するべきですよ✌ なんだったらこのおれが、今すぐにプロデュースしてもいいくらいですから✋✋✋」
やけに鼻息が荒いけど、そもそも『プロデュース』の意味を知っているのだろうか。このような中で唯一、枝光のみが特になにも発言をしていないのだが、彼の含み笑い気味である顔を見る限りでは、別に反対する気もないようだ。
「まあ、話もなんも、進展は今のところなにもないんだから、今はみんな、連載漫画のほうに全力を尽くしてくださいね♪ と言うことで、この話はわたしのところで、今のところは止めておいておきますので☺☻」
「「「「「「「「「はーーい☺」」」」」」」」」
と元孝治たち四人とアシスタントの四人と涼子による同意の声
とにかく友美が、ここで締めのセリフを言ってくれたおかげで、今回はこれにて一応お開きのかたち。だけど元孝治たち四人にこっそりと、涼子が冷やかしの言葉をささやいてくれた。
「お姉ちゃんたち、その日に備えてあんまり太らんようにせんといけんちゃね☻ さっそくあしたっから、ダイエットの実践ばい☛」
「「「「うわっち!」」」」
孝江、孝乃、治花、治代の顔が、一瞬にして真っ青モードへと変換された。
会場には今も、ヴァイオリンによる協奏曲{コンチェルト}が演奏され続けていた。 (C)2017 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |