『剣遊記超現代編T』 第三章 愛(?)と野望(?)の協奏曲{コンチェルト}。 (5) 「荒生田さん、どうやら鞘ヶ谷先生たちに目を付けたみたいね☛」
同じころ友美は、やはり同僚である一枝由香{いちえだ ゆか}からコーラの酌{しゃく}を受けながら、右耳にこっそりとささやかれていた。
少年誌といえばふつうは男の職場というイメージがあるものだが、ここ未来出版では男女の区別なく、各編集部に半々で勤めていた。そのため友美の同僚記者たちの半数は同性なので、彼女にとってはとても働きやすい職場環境であった。
由香も他の漫画家担当となっているが、彼女の場合は当然ながら男性である。それが理由なのかどうかはわからないが、なぜか唯一の女性漫画家(?)を担当している友美を、どことなくうらやましがっている雰囲気もあった。
真実を申せば友美だって、初めは男性担当であったのだが(?)。
さらに申せば、荒生田を警戒している感じもあり。
「えっ? どういうこと?」
当たり前の流れながら、友美の瞳が丸くなった。その瞳を見てプッと吹き出しつつ、由香が付け加えた。
「あたしが思うんだけど、鞘ヶ谷先生たちって、四人そろって抜群のプロポーションしてるじゃない☺ そうなると当然、荒生田さんが目を付けないわけないわよ☛ 友美だって荒生田さんの一番のヒット作、知ってるでしょ✍ 未来出版って、漫画ばかりやってるわけじゃないんだから☠☻」
「あっ! ヌード写真集……☁」
瞬間で友美の頭に、過去荒生田が手掛けた数々の書籍が浮かんできた。由香が言うとおり、未来出版はアイドルの写真集にもけっこう力を入れており、有名女優や有名タレントのヌード写真集でも、多くのヒットを飛ばしていた。
そのヌード写真集の多くを手掛けている者が誰あろう、荒生田和志責任編集者なのだ。
「ま、まさかねぇ……☁」
友美の頭に今度は、元孝治たち四人のヌードが、チラチラと浮かんできた。一度ランジェリーショップで拝見した記憶があるばかりに。
「た、確かに鞘ヶ谷先生たち、いい体してるんだけど、ちょっと無理がありそう……♋」
「どうして? 本人たちがOKするかどうかは知らないけど、あたしとしては鞘ヶ谷先生たちって、周りがほっとかないような、ほんとにいい体してると思うんだけどなぁ✋」
由香にしてみれば荒生田はともかく、ヌード写真そのものへの抵抗はないようだ。しかしある秘密を知る友美にとっては、この話に大きな無茶を感じずにはいられなかった。
(……でも鞘ヶ谷先生たちって、ほんとは男なんだからぁ……♋ これは誰にも言えない大きな壁でありハードルだと、わたしは思うわ✄)
本当の真実は絶対に口外できないので、友美は本心を、頭の中だけに収めるようにした。
一方この間にも、荒生田と元孝治たち四人の会話は続いていた。由香が指摘したとおり、話はその方面へと進んでいるようだった。なぜなら孝江も孝乃も治花も治代も口に出してはっきりと発信し、そろって瞳を丸くしていたからだ。
「「「「しゃしんしゅう?」」」」
まさしく由香が言ったとおりの単語でもって。 (C)2017 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |