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『剣遊記超現代編T』

第三章 愛(?)と野望(?)の協奏曲{コンチェルト}。

     (4)

 人差し指で人を差す行為は失礼なので、治代はその方向に顔を向けるだけにした。だけど顔を向ける行動そのものは、四人とも完全に一致した。

 

 それはとにかく、三ヶ月前の焼き肉親睦会の席で、危うく酔っ払いたちに絡まれそうになった元孝治たち四人を助けようとして、実力も無いのに助っ人気取りで飛び込んできた、あのサングラス男であった。

 

 友美は彼を、未来出版の同僚と言った。つまり同じ会社の社員であるからして、今回のパーティーに顔を出していたとしても、これはこれでなんの不思議もないだろう。

 

 名前は確か――荒生田とか言ったっけ。

 

「やあ、君たちじゃないか☆」

 

 その荒生田も、元孝治たち四人を覚えていた。それも当然であろう。なんと言っても、まったく同じ顔をした、美人(?)の(表向きは)四つ子姉妹である。これほどのインパクトが、この世に果たして存在するであろうか。しかも他社の人間であっても印象深いに違いないのに、それが同じ出版社の関係者ときているのだ。会うのは三ヶ月ぶりだがこの男――荒生田なりに、ずっと頭に刻みつけていたのは間違いない。

 

 ここはまったくの赤の他人――と言うわけでもないので、元孝治たち四人は姿勢をそろえて、荒生田にペコリと挨拶を返した。

 

 代表するわけではないが、治代から一応ひと言のお礼。

 

「あ、あのときは助けていただいて、ほんなこつありがとうございました☻ おかげ様でケガすることもありませんでした

 

 それを聞いた荒生田とやらは、瞬く間に上機嫌のご様子。濃いサングラスのために視線がどこを向いているかはわからないのだが、大きな口を開けて、ガハハと笑ってくれた。

 

「いやあ、なんの、なんの✌ フェミニストのボクとしては、か弱い婦女子である君たちを、なんとかして助けないといけないと思っただけだったんだが、お役に立ててうれしいよ☀☀」

 

「お役もなんも、一発でKOされたっちゃけどね☻」

 

 孝江は声には出さないようにしてささやいた。その三ヶ月前の武勇伝はとにかくとして、きょうの荒生田は紺色の背広に青いネクタイを締めた、ごくふつうの会社員の服装をしていた。もちろん出版社に勤めている身分であるから、これはこれで当たり前であろう。けれど元孝治たち四人にとっては、なんだか違和感ばかりに見える格好とも言えた。

 

 なにしろこのような一流ホテルでのパーティー会場でもサングラス着用のうえ、髪型があのときのまんま。中途半端な感じの、今どき古風とも言えるリーゼントであるのだから。

 

「おっと、失礼、正式な自己紹介がまだだったね☻」

 

 とりあえずの挨拶が終わったところで、荒生田が背広の内ポケットから、四枚の名刺を取り出した。それを右から順に、元孝治たち四人に配ってくれた。

 

 名刺によると名前は、『荒生田和志{あろうだ かずし}』となっていた。

 

 まあ本名など、本当にどうでもよろしいのだけど。


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