『剣遊記超現代編T』 第三章 愛(?)と野望(?)の協奏曲{コンチェルト}。 (3) パーティーも始まって一時間が経過をすれば、座の盛り上がりも、一応は落ち着いてくるもの。元孝治たち四人はようやく黒山の人だかりから解放された格好で、そろって同じテーブルに集結をしていた。
「いやあ、とにかく疲れたっちゃねぇ……♋」
まだまだ慣れない漫画家同士での挨拶の繰り返しで、孝江だけではなく治花を始め、元孝治たち四人全員、今や心労の域に達していた。しかしいつまでもチヤホヤされるわけでもないので、今はしばしの休憩といったところ。現に他の漫画家たちの話題は、それぞれ別の方面に移っているようでもあるし。またアシスタントの和布刈たちも、今は他の漫画家たちへの挨拶で、あちこちのテーブルを渡り歩いていた。涼子などは元孝治たち四人の妹である立場をちゃっかりと利用して、漫画家の各先生たちに、色紙でのサインをねだって周っていた。そのようなわけで今この場にいる者は、元孝治たち四人と友美の五人だけとなっていた。
「やあ、みんな初めてのパーティーはどうだったがやか?」
そこへワイングラスを右手に持って、社長兼編集長の黒崎氏が参上した。
見事に決まった七・三分けに、なぜか赤いネクタイが、とても特徴的な紳士である。
「あっ、編集長!」
元孝治たち四人よりも、真っ先に友美が気づいた感じ。右手に持っているウーロン茶入りのコップをパタンとテーブルに置いて、直立の体勢となって社長兼編集長を迎える姿勢をとった。さらに遅れて気づいた元孝治たち四人も姿勢をそろえ、黒崎に向かって頭を下げた。
「「「「こ、こんにちは!」」」」
四人そろって、ほとんど同時の仕草でもって。
そんな四人と友美を見て、黒崎社長兼編集長が軽い笑みを見せてくれた。
「君たちのことは……ここにいる浅生君から、くわしい事情を聞いとるがね。むしろえれぁあほどおうじょうこくことになったと言うのに、連載の人気を持続せらっせるんだから、僕としてもどえらけないことだげね」
「は、はあ……きょ、恐縮してます……♋」
孝乃は瞳を丸くする思いになって、繰り返しで頭を下げた。また他の三人(孝江、治花、治代)も同様。黒崎の名古屋弁のインパクトが強過ぎて、もろに毒で当たった気分となったのだ。
「おっと、他の編集長たちからもお呼ばれしとうから、僕はここで。編集部でまた会おうがね」
ここで幸運と言うべきか、実際に忙しい身の上のようである。黒崎は元孝治たち四人とこれ以上話をすることもなく、この場からさっさと立ち去った。
治代が友美に、ポツリと言った。
「社長もあたしたちんこつ正体知っとうはずったいねぇ⚠ でもそんこつ初めにちょっと触れただけやったばい⛔ 浅生さんから性転換に四分裂んことば聞いて、なんも感じちょらんのかねぇ?」
「社長はねぇ……☁」
友美は少しだけ、微笑みに苦笑を交えたような顔になっていた。
「基本的に漫画が売れれば、あとはなんの問題も気にしない、っていうスタンスなのよねぇ⛹ ほんとに鞘ヶ谷先生の秘密を知ってる人は、会社の中ではわたしと、あの社長兼編集長だけなんだけどねぇ✍✊」
「ほんなこつあの社長兼編集長やったら、あたしたちんこつ、一生秘密ば守ってくれそうっちゃねぇ⛔ もっともあたしたちに同情したわけやのうて、漫画ば描くのにまったく障害にならん、っちゅう理由でやね☻」
孝江は自嘲気味にささやいた。そこへまた、新たなる訪問者が登場した。この新登場の人物も、元孝治たち四人はすでに顔を知っていた。
治代が言った。
「あっ、あんときのサングラス😎っちゃよ☞」 (C)2017 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |