『剣遊記 番外編X』 第二章 超獣使いとゴウマン男。 (4) 「きゃっ♡ ほんとに三べん回ってんさぁ♋☞」
静香もこれには、ビックリ仰天の形相。ついでだけど到津も、カップ洗いの手を止めないまま。同じようなビックリ顔となっていた。
「あいやあ! 嘘みたいあるね!」
ただし事態そのものは、決して笑いごとでは済まなかった。その理由は山ほどもある大超獣が、短距離とは言え同じ所でグルグルと走り回る有様。なので周辺が、まさしく大地震のような大震動に襲われたのだ。そのため崖の上からはバラバラと、大小の岩石がたくさん落ちてきた。
「わわぁーーっ!」
「きゃあーーっ!」
「あいやあ! これは困ただわねぇ!」
裕志、静香、到津の三人は、慌てて崖の下から退散した。しかし荒生田だけは、なぜか全然平気の顔。
「ゆおーーっし! なかなかええもんやないけぇ☀ 裕志ぃ! これでおまえも正真正銘の『超獣使い』ってもんばいねぇ☆✌」
サングラス😎の似合う顔面全体に、超余裕の笑顔までも浮かべながらで。
「は、はあ……ど、どうもぉ……☁☆」
いまいち先輩の妄言は、実感が伴わなかった。けれどそれでも、裕志は自分の歯が天まで浮くような気持ちで、荒生田に応じてやった。
なんと言っても、超巨大生物がとりあえず自分の指示に従った事実を、この目でしっかりと見届けたものだから。
そんな裕志よりも静香のほうが、手放しの大絶賛ぶりでいた。
「凄いのぉ☆ 裕志くんって、世界で初めての超獣使いになったんべぇ♡♡」
それでもいまだ、バルキムが自分の指示に従ってくれたことに、裕志自身が一番信じられない思いでいるのだ。そんな小心魔術師をドスンとうしろから押しのけ、今度は荒生田が、三べん回ったばかりであるバルキムの前にしゃしゃり出た。
「ゆおーーっし! これでこんバルキムが、オレたちの手でコントロール可能っちゅうことがわかったっちゃ……ということで裕志、ちょっとそこばどきんしゃい♡♥」
「は、はい……☁」
馬鹿正直で先輩戦士の銅鑼声に従い、裕志は三歩前から引き下がった。それから荒生田は、後輩魔術師よりずっと大きな声を出し、バルキムに向かって叫び掛けた。
「ゆおーーっし! 次はオレん番やけぇ! まずは左手ば挙げんしゃーーい!」
クァァンと、なんと荒生田から言われたとおりの展開。バルキムが素直に、自分の左腕を空に向かって挙げる動作を見せてくれた。
「わわっ! 先輩の言うことも聞いたぁ!」
「ほんと! どうしてだんべぇ?」
「あいやあ!」
裕志と静香、さらに到津までが、二度目のビックリ。だが荒生田の傲慢極まる号令は、まだまだこれだけでは収まらなかった。
「次ぃっ! はい右挙げて♩ 左下ろして右そのまんま♪ 次は左足挙げて♫ ついでにそん場でジャンプばい♬」
これで巨体が本当にドドンと跳躍する事態だから、周辺が再びの大地震。裕志たち三人の足元――大地がグラグラと揺れて、見事全員すっ転びの有様となる始末。
「あわわぁーーっ!」
「きゃあーーっ!」
「あいやあ!」
だけど地震を起こした当のバルキムは、荒生田の号令に、ことごとく従っているばかり。すなおな態度で、サングラス戦士がわめくとおりの行動を続けていた。
しかし荒生田自身は、これでもまだ満足をしていない顔だった。
「ゆおーーっし! お次は『○ェーーッ!』のポーズでぇ! あの怪獣王の再現っちゃあーーっ!」
それから荒生田は、わざわざ自らの身をジャンプ。自分自身の両手両足を空中で交差させたポーズを取り、キチンと見本を示してやった。
こうなると、バルキムも一蓮托生だった。
クエーーッ!
物の見事に大地の上での大型ジャンプ! 自分の両腕と両足を見本どおりに交差させ、命令者(荒生田)の真似を決めてくれた。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |