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『剣遊記 番外編X』

第二章 超獣使いとゴウマン男。

     (3)

「ど、どうしたんかい? 急に大声さ出してのぉ♾」

 

「先輩、なんか変なモンでも食ったとですか?」

 

 静香と裕志が、そろって瞳と目を丸くした。ところが荒生田のサングラスの奥で光る三白眼は、ふたりの内の後輩魔術師のほうだけに向いていた。

 

「裕志っ! こんバルキムはおまえの人格ば移植されちょうっち言うちょったよなぁ!」

 

 ここでなにやら、話の進行を急展開させるような問いを、先輩戦士が後輩魔術師にぶち撒けた。

 

 このとき荒生田は、口の右端をニヤリとさせていた。この仕草が裕志をさらに、大きな不安へと駆り立てるのだ。

 

「……は、はい……そげんらしいことですけどぉ……☁」

 

「ゆおーーっしっ! と、言うことはやねぇ☀」

 

 荒生田がクルリと、自分の背後でデンと構えているバルキムに振り返った。それにつられて、裕志と静香と到津も、バルキムに一斉に注目した。その新造キマイラとやらは、地上の人たちが急に自分へと顔を向けたので、なぜかビクッとしたような素振りを見せた。これはドデカい体格の割には、かなり小心な一面が垣間見えたようであった。

 

 このような仕草であるバルキムを見た荒生田が、さらになにかを確信したようだ。バルキムに続いて後輩へと、視線の向きをチェンジさせた。

 

「ゆおーーっし! だいたいんこつは理解できたっちゃ☀ そこでやな、裕志! おまえバルキムになんか言うてみい☝」

 

「えっ? ぼくがバルキムに、なん言うとですか?」

 

 突然話を振られたので、裕志もバルキムと同様。ビクッとした素振りをあらわにした。だがこの仕草もまた、荒生田の考えを、さらに確信の確信へと導いたようだった。

 

「そうっちゃ☆ たとえばやなぁ、こん場で三べん回ってワンち鳴けっとか、いっそ逆立ちばしてみいっとかやね☻」

 

「そ、そげな無茶なぁ♾」

 

 荒生田の常識外れな言動に、裕志は思いっきりに困惑した。しかしそこは、先輩からの命令には絶対に逆らえない、遺伝子レベルにまで染み込まされた幼年期からの潜在的性格であるのだ。

 

「じゃ、じゃあ……やりますけ……☁」

 

 せっかく自分を助けてくれた恩人――いやいや恩獣(?)に、なんだか物凄く申し訳ない気持ちでいっぱい。裕志はトボトボとした足取りで、バルキムのすぐ近くに身を寄せた。

 

「あのぉ……☁」

 

 それからこれまた、恐る恐るの小さな声。

 

「ほんなこつ悪かとですけどぉ……三べん回ってくれえませんけ? 『ワン』まで言わんでもよかっちゃですからぁ☁☹」

 

 それこそ荒生田の言いなりそのまま。むしろ自分自身の思考自体が停止しているような気持ちで、裕志はバルキムに向かって、静かにささやきかけた。すると、クァンとひと声可愛らしく(巨体にまるで似合わない)鳴いてから(『吠える』の表現も適していない)、新造キマイラが腰を下ろしている状態から、ドスンと二本の足で立ち上がった。

 

 それからドドドドドドドッ――だった。

 

「えっ? う、嘘でしょ!?」

 

 命令――ではない。本当にささやかなお願い(?)をした当の本人――裕志は、まさに自分が腰を抜かす思いとなった。


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