『剣遊記 番外編X』 第二章 超獣使いとゴウマン男。 (10) 「おっ? どげんしたとや、おめえら☛」
すぐに荒生田が、街道を自分たちの進行方向とは逆に走っている――いや、むしろ逃げようとしているにしか見えない、ひとりの男のエリ首を右手でガシッとつかんで、無理矢理的に引き止めさせた。
事情を丁寧――かつ強引に訊き出すために。
その男は旅の商人らしい風采の人物であった。しかし顔色のほうは、物の見事に青ざめきっていた。
「か、怪獣や! 怪獣が出たんやぁ!」
「なにぃ、怪獣やとぉ?」
一般の普通人であれば、『怪獣』なる語句を耳に入れたとたん、それこそ飛び上がって腰を抜かしたであろう(矛盾している表現法)。だが例外として、荒生田とその一行は前に――いや現在も怪獣――いやいや超獣なるシロモノを、言わば自分たちの手元――いやいやいや足元に置いているのだ。だから今さら怪獣ごときでは、まったく驚くには値しなかった。
「ふぅ〜ん、怪獣ねぇ……で、そいつはどこに出たとや?」
「あ、あれはやなぁ……♋」
いかにもあせりまくりである商人相手に、荒生田の態度は余裕しゃくしゃくものだった。これで質問をしているサングラス😎野郎が、もしも非力そうに見えていたとしたら、間違いなく腹を立てた商人から、思いっきり殴り飛ばされていたに違いない。とにかく商人が、右手で街道の後方――つまり南の方向を指差してくれた。
「こっから先の神戸港やぁ! 神戸港に見たことも聞いたこともあらへん大怪獣が、急に現われよったんやぁ!」
「ほほう、神戸けぇ☛ わかった☻ ありがとっちゃね☻」
簡単に礼を言って、荒生田は商人のエリ首から、パッと右手を離した。とたんに商人は、一目散に街道を北の方向へと駆け出した。
もはやうしろを振り返りもしないで。
それから荒生田は、改めて周辺を見回した。見ればいつの間にかであるが、他にも荷車や大八車に牛車などが、道いっぱいの渋滞状態になっていた。しかもこれらのほとんどが家財道具などを満載にして、北の方向への避退を続けていた。
これではもはや、怪獣とやらの脅威から逃れる、難民の群れとは言えないだろうか。しかしサングラスの戦士は、避難民たちに同情の念を抱くわけではなかった。それよりも自分たちの力を、大いに発揮できる場に遭遇したのである。
「まさか、こげん早ようオレたちの出番が来るなんち、いっちょも思わんかったっちゃねぇ☆☆」
それこそ神様へ、大きな感謝を捧げたい気分になったのだ。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |