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『剣遊記 番外編X』

第二章 超獣使いとゴウマン男。

     (1)

「はい、コーヒあるね♠」

 

「あ、ありがと……☺」

 

 あれからしばらくの時間を置いて――であった。一応心の落ち着きを取り戻し、到津から沸かし立てのコーヒーを頂戴した裕志は焚き火の前で正座をして、急ぎ気味でそれをノドに流し込んだ――なんて無茶をやらかすものだから、誰もが経験するような失敗をしでかした。

 

「ぐわほっ! ぐほっ! げほっ!」

 

 熱めの液体が気管のほうに入ったので、思いっきりに咳き込む結果と相成った。

 

「ほらぁ、熱いコーヒーなんけい、ちゃんとちっとっつ冷ましてから飲むだよぉ☞」

 

「は、はい……すんましぇん……♾☁」

 

 別に悪い行ないをしたわけでもないのだが、静香から注意の小言を言われ、裕志はなんとなく自分の立つ瀬がなくなった気持ち。

 

「で、こいつばなんち言うたっけ?」

 

 そこへ例のごとく、荒生田がしゃしゃり出た。ついさっき、当の『こいつ』を目の当たり過ぎで拝見。物の見事ぶっ倒れて気絶をしたくせに、早くもその醜態を忘却。いつもの偉そうな口振りで、肩身がせまい思いでいる裕志に、改めて問い掛けた。

 

「なんや……その、みんなで『バキシム』とか言うたっちゃねぇ、さっき……なあ裕志♐」

 

「は、はい! 『バキシム』やのうて『バルキム』なんですけどぉ……☻ 痛っ!」

 

 とたんに裕志は、荒生田からハリセンの一撃をバシッと献上された。

 

「しゃーーしぃーーったい♨」

 

 この展開は棚に上げる。

 

 それよりも先輩からの質問には、絶対にすなおな態度で応じないといけない遺伝子が沁み付いている、小心魔術師の裕志である。そんな風で、熱かったコーヒーがまだ、ノドの奥をヒリヒリとさせているまま、焚き火の前でスクッと立ち上がった。それから自分たちの真正面で腰を下ろして鎮座をしている山のように巨大な影を、ここでも改めて見上げてみた。

 

 そうなのである。とある崖の真下の洞窟前。その前方に広がる草原で焚き火を続けている四人(荒生田、裕志、静香、到津)と並んで、ジャイアント{巨人}を遥かに凌駕する体格のバルキムが、おとなしい仕草で正座をしているのだ。

 

 裕志とまったく同じ姿勢でもって。

 

 まさに恐ろしいほど巨大でありながら、別段獰猛でも凶暴でもなし。むしろその愛らしいとも言えそうな青色の瞳に、静香がうっとりと見とれているほどとなっていた。

 

「よく見たら……まあずなっから可愛いもんだんべぇ〜〜♡ やることなすこと、愛嬌たっぷりだねぇ〜〜♡」

 

 彼女の大きいモノ好きが、この場でも大いに発揮されている様子っぷり(それが巨漢の魚町ひと筋である理由らしい♡)。

 

 それはともかくとして、荒生田からの問い掛けは、いつもどおりの根掘り葉掘り的。

 

「で、こんバキシム……やなか、バルキムっとかいうキマイラば尾田岩とかいうアホな魔術師が造って、これにおまえの人格ば嵌め込もうっちした……っちゅうことね?」

 

「は、はい……ぼくが何回も説明したとおりです✍」

 

 要するに、同じ質問の繰り返しだったわけ。だけど自分が納得するまで、それこそ何回でも同じ質問をブツけるところが、このサングラス😎男のしつこい性格の現われでもあるのだ。


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