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『剣遊記Z』

第一章  珍客万来。

     (7)

 美奈子が使っているカードは、西洋から輸入をされた占い用の護符{ごふ}で、一枚一枚に神や天使、悪魔などが漫画のようなキャラクターで描かれていた。美奈子は相談者の前にそれらのカードを並べ、さらに星座よる占い風水も加味して答えるようなシステムにしていた。もっとも美奈子は、古くからある正式な占い法を、かなり自分流にアレンジ――悪く言えば歪曲しているので、信頼性にやや問題あり――とも言えるのだが。

 

 そもそも『占い』は専門の占い師に任せれば良い話であって、魔術師が行なう仕事ではないのだ。

 

 そんな裏事情など知るよしもなく、画家が美奈子のカードさばきに、ジッと注目していた。

 

「なるほどぉ……神と悪魔けぇ……この絵は誰が描いたかわからんとやけど、西洋のオタクみたいな感じったいねぇ✍」

 

 さすがに本業の絵師なだけあって、カードの絵模様のほうに、興味を惹かれているご様子。実際は二次元キャラが大好きな、大きなお友達向けのようなものだけど。

 

 それからすぐに、美奈子の占い結果が出た。

 

「答えが出ましたえ✌ 少しばかしきょう一日の限定を越えはったんどすが、それはそれでサービスにしときますさかい✐」

 

「それは有り難かぁ〜〜✌ で、なんち出たとや?」

 

 美奈子の言葉に身を乗り出し、真面目に聞き入る態度の自称画家。見た瞳{め}には平静な感じであるのだが、本心では占いの結果が気になっているのだろう。そんな画家の真剣ぶりに、美奈子はなんとなくだけど、苦労が報われた気持ちになってきた。それからややもったいぶった口調で返答。前述したとおり、多少の脚色も織り込んで。

 

「では発表しますえ☆ よいどすか✊ きちんと聞きはるんやで☛」

 

「ああ、聞いちょるばい☻ やけん早よう言んしゃい♐」

 

 画家はすでに、覚悟を決めているようだった。これなら美奈子も、占いがいがあると言うものだ。

 

「あなたはんの運勢を切り開く鍵は、ここから北西の方角にあがった先にありますんやで☞ そやさかい、そこにはあなたはんが探し求めるもんが、必ず存在しはることでしょう☬ さらに……」

 

「さらに……?」

 

 目をしっかりと見開いている画家の前で、美奈子が偉そうに咳払いをひとつ。

 

「こほん☺ きょう初めて会話した女子{おなご}はんの方にお会いしはったら、必ずその人に付き従うんやで☝ その女子はんがきっと、あなたはんの運命を定めはる導き手になってくれますさかいに☀」

 

「なんや☆ それならあんたやろうも☜」

 

「えっ?」

 

 間髪を入れず、画家から右手で正面から指を差され、美奈子の瞳が見事な点となった。


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