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『剣遊記Z』

第一章  珍客万来。

     (3)

 このとき二階に上がる階段の方向から、店長の秘書である、光明勝美{こうみょう かつみ}の声がした。

 

「可奈さぁーーん! 店長がお呼びやけぇーー! 仕事ば頼みたいとよぉーー!」

 

 ピクシー{小妖精}である勝美は、常人の手の平大の身長しかなかった。それなのに彼女の声は、酒場全体に響き渡るほどの高音なのだ。

 

「あっ! はぁーーい! すぐ行きますんでぇ、ちっと待つずらぁーー!」

 

 勝美に応えて可奈が、ぶっきらぼうからまるで豹変したかのように元気の良い返事で、席からダッと立ち上がった。

 

「そんじゃ、そーゆーことやさけぇ、これからもよろしくずらねぇ☻」

 

 お終いで、可奈が孝治たちに、改めての挨拶を言い残した。それからあたふたと、階段を駆け上がっていった。

 

 そのあとテーブルに残ったお皿の枚数を、孝治は数えてみた。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ……うわっち!」

 

 その数なんと六枚(皿の様子から見て、ナポリタンもあれば明太子スパもあり。スパゲッティ好きも、キャラクター紹介に加える必要がありそうだ)。孝治は感心した気分でつぶやいた。

 

「あいつ……早くも未来亭の一員になりきっとうっちゃね♋ もともと順応性が高かったんやなかろっか?」

 

 あとでまた聞いた話によれば、可奈はあの若さで、すでに刑務所暮らしも経験済みでいるらしい。さらに山賊団を手玉に取ってアゴでコキ使ったりと、孝治は今さらながら可奈の波乱万丈な生き様に、舌を巻く思いがした。

 

 すると涼子がうしろで、くすっと噴き出してから言ってくれた。

 

『まあ、良かやない☺ また新しい仲間が増えたっちゃけ♡ ここがまたにぎやかになるっちゃけねぇ♡』

 

「もう充分にぎやか過ぎっちゃよ☻」

 

 などと言葉を返しつつ、友美も満更ではなさそうな顔でいた。それと同時に孝治は、可奈のもうひとつのセリフも気掛かりとなっていた。

 

「それはそうと、美奈子さんと千秋ちゃんと千夏ちゃん、博多まで行ってなんしよんやろっか?」


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