前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記Z』

第一章  珍客万来。

     (2)

 孝治、友美、涼子の三人は、そのまましばらく、可奈と同じテーブルに同席。可奈の話に、ジッと耳を傾けた。理由は北関東の群馬県で自分たちと別れたあとの、美奈子や可奈たちのその後の行動が知りたいからである。

 

 だから別に、可奈に同情しての行為では、決してない。

 

 あしからず。

 

 ちなみに孝治と友美は、ふつうに椅子に座っていた。しかし涼子だけは同じテーブルの上で、なんとあぐらをかいていた。これでも生前は貴族の令嬢だったという話であるから、人も変われば変わるもの。さらに友美と涼子は赤の他人でありながら、まるで双子のようにウリふたつな顔。ただしふたりの性格は、とても好対照。つまり簡単に表現すれば、友美が真面目タイプ。涼子はおてんば型と言えるのかも。

 

 それはまあ置いといて、可奈の受難話は続いた。

 

「でもってずらね、あたしが隠しとったお宝さ奪い取って、こすい美奈子はあたしさ元に戻してくれたずら♣ でも、あたしもそのあと行く所さずで無かったさけぇ、嫌々だけんど美奈子さについて、ここまで来るよりするきりなかったずらよ☠」

 

「で、そんまんま、まるんまんま、未来亭に就職したっちゃね♐」

 

「んだ☢」

 

 友美の言葉に、可奈が軽いうなずきで返した。ここで孝治も、ひと言。

 

「店長、まだまだお店の事業ば拡大する気なんやろうねぇ☞ やけん新人の魔術師は大歓迎ってとこっちゃね☻ でもぉ……ほんなこつそれで大丈夫なんやろっか?」

 

 未来亭の発展自体は、孝治にとっても、これはこれで大いにけっこうな話。しかし、猫も杓子{しゃくし}も簡単に受け入れる黒崎店長の経営方針に、孝治は一抹の疑問を禁じえなかった。

 

「それで、美奈子さんと千秋ちゃんと千夏ちゃんも帰ってきたっちゃろっか?」

 

「そん三人ならいねえずら✄」

 

「えっ?」

 

 友美の再度の問いに、可奈はぶっきらぼうな感じで答えた。瞳を丸くしている友美が、繰り返し尋ねた。

 

「それじゃ、今どこ?」

 

 可奈の返答には、やや恨みがましい感じさえあった。

 

「帰ってきたんだどもあいつ、仕事がねえってこいて、博多市ってとこに商売に行ってるずらよ✈ もうやぶせったい(長野弁で『うっとおしい』)し、あたしには関係ねえんだぁ✄」

 

「博多……市?」

 

 いったい三人(美奈子、千秋、千夏)は、博多でなんするつもりやろっか? まさしくぶっきらぼう――かつ恨みがましいような可奈の返答で、尋ねた友美はもちろんのこと、そばで話を聞いていた孝治も、頭の上に三個の『?』が浮かび上がった。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system