前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記Z』

第一章  珍客万来。

     (23)

 この間に中原は、すでに黒崎のあとへと続いていた。

 

それから酒場のカウンターで、宿泊の部屋の申し込み。その手続きもすぐに終わったようで、黒崎だけが階段の踊り場まで戻ってきた。

 

「みんなでお取り込み中のようだが、孝治と友美君だけ、あとで僕の執務室まで来てほしいがや。君たちに頼みたいことがあるんだがね」

 

「は、はい!」

 

 いまだ女性たちからワイワイ攻められながら、孝治は隙を見て黒崎に応えた。すぐにでもこの場から逃げ出したい一心もあって。

 

「あいつにおれの裸ば描かせてやれってんなら、おれは行きませんけね✄」

 

 孝治のややヒネた態度に黒崎は、ふふんと軽く鼻で笑ってくれた。

 

「そうではないがや。まったく別の話だがね」

 

「別ん話?」

 

 実に気になる黒崎の言い回し方。しかし今は、それに疑問符を付けている場合などではなし。とにかく孝治は、この場をいかにして切り抜けるのか。それだけが切実なる大問題なのだ。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system