『剣遊記Z』 第一章 珍客万来。 (17) ところが金に反応を示した者は、孝治だけではなかった。完全に傍観者ヅラをしていた美奈子までが、ブレスレットに強烈な興味を引き起こしたのだ。
「まあ、これは確かに純金で出来たブレスレットのようでおまんなぁ☆☆」
口では一応冷静を演じつつも、その瞳は爛々と輝いていた。どうやら生粋のお宝好きが、ここでムクムクと頭角を現わしたようである。また千秋も、クリクリとした瞳を凝らして、中原が持つブレスレットを覗き込んでいた。
「う〜ん、純度まではようわからんのやけど、本モンに間違いないようやなぁ✌」
「千秋、みなまで言わんでもわかっておます✄」
この時点で早くも、なにかを決断したらしい。美奈子が中原の面前に押しかけた。
「えっと……ラバウルはんとかおっしゃいましたどすよなぁ☀」
「ちゃうばい! 中原{なかばる}たいっ! ま、まあ……あんたにも今回は感謝しとうとばってん……☂」
一時的に興奮はしたものの、すぐに冷静さを取り戻した中原に、美奈子がグンと全身で詰め寄った。
「いえっ! 感謝のことやおまへんのや! そうではのうてヌード画の件、このうちが代わってもよろしゅうおまっせ✌」
「へっ?」
このセリフは中原だけではなく、孝治たちもビックリさせた。
「うわっち?」
そんな周囲のとまどいなど一切構わず、美奈子はさらに、芸術家へと押し迫った。
「『へっ?』やおまへんで☝ ヌード画のことでおます! どうやら孝治はんは辞退しなはるようやさかい、それならうちが引き受けてもええんやで✌ そして大願成就の暁には、ぜひうちらにその金のブレスレットを……☻」
「今思い出したっちゃけど……美奈子さん、お宝に目がくらんだっちゃね♋」
孝治の左横にいる友美が、女魔術師の本心を見透かしてささやいた。
「そげんみたいっちゃねぇ☹ やけど、お宝ば手に入れるためにあそこまでやるっち、おれもほんなこつ驚きっちゃねぇ♋」
孝治もある意味、美奈子の恐るべき執念に、改めて度肝を抜かされた。しかし、これで裸になる役回りが美奈子に移るともなれば、それはそれで、ほっとした気持ちでもあった。
だがやはり、世の中は、そんなに甘くはなかったのだ。
中原が美奈子の真剣(?)な表情を、ジッと見据えてから、ひと言尋ねた。
「失礼やけど、あんた、年齢{とし}いくつね?」
「はあ?」
最初は美奈子も、瞳が点となった。だけどすぐに、気を取り直したご様子。ここは一応であろう。正直に答えた。
「は、はい……二十歳{はたち}どすけどぉ……それがどうかしはったんどすか?」
すると中原は美奈子には応えず、同じ問いを孝治にも繰り返した。
「そこのお嬢さん、君はいくつね?」
『お嬢さん』の語句が引っ掛かるところではあった。それでもここはやはり、孝治もすなおに答えてやった。
「は、はあ……十八ですっちゃ……けどぉ……☁」
「わかった✌」
中原がポンと、両手を打ち鳴らした。この動作の意味は、わからないのだが。
「やっぱ、おれの考えは変わらんけ✍ おれの絵のモデルになるんは君……名前はなんちゅうとや?」
「……孝治です♨ 鞘ヶ谷孝治……☃」
孝治は半分ほど立腹したままでいたが、それは中原には関係なかった。
「ずいぶん男っぽい名前たいねぇ♐ まあ、よか☆ とにかくそうばい! モデルは君しかおらんのやけ!」
なんだかやっぱりわからないのだが、中原が再び両手をポンと打ち鳴らして断言した。
「うわっち……あ、そうね……☢」
孝治は深いため息を吐いた。『駄目ばい、こりゃ☠』の意味合いを込めて。 (C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |