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『剣遊記Z』

第一章  珍客万来。

     (15)

 悲しい話はともかくとして、作者にとっては自分の作品との、やはり感動の再会に違いはなかった。中原は事の発端になってくれたかたちである美奈子たちにも、大きな感謝を表わした。

 

「いやあ! あんたの占いはズバリ的中しましたばい! こげんしておれが探し求めるモデルに巡り会{お}うたうえ、昔描いた作品にも出会うことができたとやけ♡」

 

「……ほほっ、そ、それは仰山おめでたいことでんなぁ……うちも実を申して感動してまんのやで……☻」

 

 おのれの占いのインチキ性を、美奈子は多少なりとも自覚していた。だからこそ手放しの称賛が、なんだか恥ずかしくて仕方のない思いだった。そのために日頃はプライドの高い魔術師もきょうは珍しく、なんだか顔面が赤面化していく感じ。

 

 その一方で、黒崎が中原の言葉に、おもしろそうな興味を抱いている様子でいた。

 

「モデルですかぁ……モデルとは、この絵の他にも、なにかあるんですか?」

 

 これに中原が、すぐに喜色満面な顔となって答えた。

 

「実は、おれがたった今見つけたとやけど、そこにおる戦士のお嬢さんば、ぜひとも絵画として描かせてほしいったい! 芸術の探究のためにやねぇ☞☞」

 

 一瞬だけど、黒崎の目が点となった。

 

「……お嬢さん……孝治が……うぷっ! おっと、これは失礼。なるほどぉ、お話はだいたいわかりましたがや」

 

 最初の『うぷっ!』が気に懸かるところだが、中原の熱意に、黒崎はどうやら賛同したらしかった。すぐに孝治に振り向いて言った。

 

「そんなわけだがや。孝治にも話はわかるだろう。彼は純粋な気持ちで素晴らしい絵が描きたいだけだがね。だから僕からもお願いしたい。彼に協力してやってくれたまえ」

 

「う〜ん、そうですねぇ〜〜☻」

 

 一応、目上の上司である黒崎が薦めてくれる以上、孝治もなにがなんでも嫌とは言えなかった。

 

「まあ、やってみますけ☆」

 

 たまには絵に描かれる経験も良かろうと、孝治は中原の正面に一歩踏み出した。それから言われてもいないのに、戦士らしいポーズを勝手につけてみた。

 

「で、どげな絵ば描きたいと? おれが立ってるとこっとか、あるいは戦ってる姿っとかね✈✌」

 

 不思議なもので、自分で尋ねているうちに、孝治はだんだんとその気になってきた。おまけに勢いで、腰に装着している剣まで抜いて、キラリと剣身を光らせた。

 

「やっぱ、武器ば構えたほうがよかっちゃろうねぇ✌ 『戦う勇士の哀愁☻』なんちってね♡」

 

 しかし中原は、孝治のいずれの問いかけにも、頭を横に振るだけだった。

 

「そげなもんやなか✄ おれが描きたか君の姿に、剣も鎧も要らんとやけ✁✃ ただ産まれたまんまの姿さえあったら、それでよかばい☀」

 

「なんね、そげな簡単なんでよかっちゃね☆」

 

 孝治は軽い気持ちで鎧を脱ぎ、それからベルトも外そうとした。その段階になってハッと気づき、慌ててベルトを締め直してから、中原に問い直した。

 

「ちょい待ち! あんたはなんが描きたいと?」

 

 これに自称画家こと中原は、平静と熱意が半々のような顔をして、明解に自分の希望を述べてくれた。

 

「おれがバリ描きたかとは、君の『ヌード画』たい☆☀」


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