前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記Z』

第一章  珍客万来。

     (11)

「ああ! 絵を描くおじちゃんですうぅぅぅ!」

 

 当然のごとくで千夏が、いの一番に驚きの声を上げた。

 

「師匠……やっぱりここまで来よったでぇ……☠」

 

「ほんまどすなぁ……☠」

 

 千秋と美奈子も、そろって深いため息を吐いた。

 

 あまりにしつこいので、市内で一度はまいたつもりでいた。その中原が、こんなにも早く未来亭に現われようとは。

 

 あとで聞いた話によれば、早期発見の理由は中原が北九州市内で一番大きく、しかも最も多くの魔術師たちが出入りしているお店はどこねと通りがかりの人たちに尋ねて回ったら、みんながみんな、この未来亭だと教えてくれた――とのこと。

 

「おおっ! おったおった! そこにおったんやねぇ♡」

 

 すぐに目ざとく三人(美奈子、千秋、千夏)を見つけ出し、中原が奥のテーブルまで駆けつけた。

 

「エラい大したド執念どすなぁ ほんま感心しますわ☹」

 

 美奈子の少々の皮肉を受けても、ツラの皮は特別製らしい。中原はぺらぺらと、勝手にしゃべりまくるだけの態度でいた。

 

「当ったり前ったい! あんたに言われた探し求めるもんがなんなんか、おれはいまだ見当が付かんとたい! とにかくあんたが自分に付き従えっち言うたとやけ、おれはきのうからそげんしようと✌」

 

「よう☆ 美奈子さんに千秋に千夏じゃん♡」

 

 そこへまた話の展開上、タイミングの悪い場面で、孝治も参上した。

 

「美奈子さんたち、お帰りなさい♡」

 

 もちろん友美もいっしょ。さらに涼子も――彼女だけはなぜか、中原の顔をジッと見つめていた。

 

『あれ? 美奈子さんの隣りにおる人……なんか見覚えある……みたいっちゃけどぉ……☁』

 

 この小声は、孝治と友美にも聞こえていなかった。だから涼子の様子に気がつかないまま、孝治は美奈子に話を向けていた。

 

「青森まで遠征ばして帰ってくるっち、ほんなこつ大変やったんやろ♐ で、なんか収穫ばあったと?」

 

 美奈子は遠征の話についても、やはり苦笑の顔で応えてくれた。

 

「まあ、あるにはありましたんやけどぉ……ほんま骨折り損どしたなぁ☺」

 

 このとき気安く美奈子に話しかけながら、同じテーブルの椅子に座ろうとしていた孝治の顔を見たらしい。今度は中原が、突然高い奇声を張り上げた。

 

「君たぁーーい! 君こそおれが探し求めとった芸術ばぁーーい!」

 

「えっ?」

 

「うわっち?」

 

「えっ?」

 

「なんやて?」

 

『えっ?』

 

 美奈子と孝治はもちろん、居合わす友美と千秋と涼子。それに酒場の客や給仕係たちも、奇声の発生源である中原に、一斉注目。例外は、千夏ただひとりだけだった。

 

「うわぁ♡ みなさんんん、おんなじビックリ顔さんしてぇ、なんだかぁとってもぉおもしろいさんですうぅぅぅ


前のページへ     ップに戻る     次のページへ


(C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system