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『剣遊記V』

第五章 地下迷宮の捕り物帳。

     (9)

「確かに……なんかありようみたいっちゃね♐」

 

 秀正が、光源である地下室の入り口前で立ち止まった。さらに秀正の前にいる狼――正男も、小さくうなり声を上げていた。

 

「がうるるるるるっ!」

 

 孝治は目先の判断がつかなかったので、左隣りで踏ん反り返っている大門に尋ねてみた。

 

「隊長さん、なんかようわからんとですけど、なんか大騒ぎやりようみたいですねぇ☞ これからどげんします?」

 

 ところが衛兵隊長の腹は、どうやらとっくの昔に決まっていたようだった。

 

「訊かれるまでもない!」

 

「うわっち!」

 

 孝治も藪蛇だったと思うほど、大門がキッパリと答えてくれた。

 

「なにが起こっとるかは知らんが、敵が混乱しとるのは神より与えられた千載一隅の思し召し! 皆の者ぉ! いざ出陣じゃあーーっ!」

 

「おおーーっ!」

 

 家宝であり愛刀である虎徹を大門が振り上げると(天井にカツンと当たった)、衛兵隊の面々から、再び一斉に歓声が上がった。さらにそのまま、大門自らが先陣となり、地下室への突入を決行。部下である立場上、隊長に続かないといけない井堀が、ちょうど右隣りに居合わせた孝治に、現在の心境を大ゲサに吐露してくれた。

 

「こりゃあ、血ぃ見ることになりそうっちゃねぇ☠ 隊長さん、初めての陣頭指揮なもんやけ、きっと頭が熱うなっとうばい✄ もしかしておれはきょうで殉職して、二階級特進っちゅうことになったりしてね☠」

 

 そんな井堀に、孝治は軽い気持ちで応じてやった。

 

「まさかぁ、そげんことなかっちゃよ♥ でも冗談抜きで、お互い命ば大切にしたほうがいいっちゃね♠」

 

「ありがとよ♡♡」

 

 孝治の言葉に気を強くしたのか。井堀が元気を取り戻したような顔になった。そのついで、大事な用も忘れていなかった。

 

「では、この世での触り納めに、ここで一回!」

 

「うわっち!」

 

 早い話が、孝治のお尻に右手でポン! これにて思い残す未練(?)がなくなったらしい。

 

「よっしゃ! これでエネルギー充填{じゅうてん}百二十パーセントっちゃね!」

 

 井堀が唖然とした気持ちでいる孝治を尻目に、大門に続いてさっさと地下室へ突入していった。

 

「孝治、またなんかされたと?」

 

 友美が心配顔で、孝治に尋ねた。孝治は顔面に熱が溜まる思いで叫んでやった。

 

「井堀ん野郎ぉ! 最後にまたおれの尻ばさわって行きやがったと! そげんお望みやったら、おれがきょうをあいつの命日にしてやるけねぇ!」


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