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『剣遊記V』

第五章 地下迷宮の捕り物帳。

     (5)

(あっ、ここやここや……☞)

 

 美奈子はまず、酒盛り中である広間の、すぐ右隣りの部屋に忍び込んだ。するとそこには、数多くの物品や絵画らしい物が山積みにされていた。

 

(こないに仰山おましたんどすなぁ……☆)

 

 さすがの美奈子もビックリ。これらは誰がどのように見ても、怪盗団の輝かしい戦利品の数々であろう。

 

 部屋の灯りは隣りの広間から洩れている角燈の光だけ。だけど中の様子は、だいたいわかる感じがした。

 

 しかも美奈子は、そこに置かれている物のひとつに、確かに見覚えがあった。

 

(これって……そうでんなぁ……確か未来亭の階段に飾ってあった、友美はんによう似てはる女の子の絵やおまへんか☛ 金庫といっしょに盗まれたって聞いておましたんやけど、やっぱりここにおましたんやなぁ☀)

 

 元貴族令嬢の肖像画については、美奈子も未来亭でよく目にかけるので、黒崎から聞いて大方の話は知っていた。

 

 ただし、この絵に描かれている少女が幽霊となって、未来亭に住み着いていることまでは、知るはずもなかった。

 

 さらにその幽霊が自分の絵を盗まれた事件で衝撃を受け、なんとしてでも取り返してやると息巻いている異なる次元での話も、美奈子は関知するよしもないだろう。

 

 涼子の存在など、それこそまったく認知の外。だが実は、美奈子自身はこの絵に愛着を感じていた。その理由は、なんとも形容しがたいもの。要は肖像画の少女(涼子)が可愛いから――に尽きるだろうか。

 

(この絵も未来亭に、きちんと持って帰らなあきまへんなぁ✄ うち好みのかいらしい女の子でおますさかい♡)

 

 すると友美も――は棚に上げる。とにかくそのような感情で、美奈子は盗品の山をしばらく眺めていた。だが部屋の外から、なにやら騒ぐ声が聞こえてくるではないか。

 

(おや? なんどすかいな?)

 

 急に始まった只ならぬ様子で、美奈子は部屋の入り口から、少しだけ頭を出してみた。

 

 すぐに騒ぎの原因が判明した。なぜなら鞭を握った怪盗団のひとりが、両目を吊り上げてわめいていたからだ。

 

「こん腐れゴブリンどもぉーーっ! 勝手に檻{おり}から出くさってからぁーーっ!」


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