前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記V』

第五章 地下迷宮の捕り物帳。

     (3)

 三毛猫朋子の体を借りている涼子が、宝石商の入り口に、ようやく到着。しかしすでに全員が、地下水道への突入を行なったあとだった。

 

(まっ、しょうがなかっちゃね☺ あたしば待ってくれとうはずなかっちゃけ♠)

 

 涼子は特に立腹する気にもならず、勝手に店内へ飛び込んだ。それからまっすぐ、地下の奥深くまで降りていった。

 

 現場に着いてみると地下の金庫室には、ふたりの衛兵が見張りで残っていた。だが、刺激のまったくない退屈な任務に、睡魔が襲っているのだろうか。何度も大きなアクビを連発していた。

 

 このような眠たそうな顔をしているふたりの足元をすり抜けるなど、猫の忍び足を持ってすれば、むずかしくもなんともなかった。ましてやこれがネズミであれば、なおさらたやすいはずである。

 

 今からそのネズミと戦うのだ。

 

 それを考えると、猫の体に宿る狩猟本能が騒ぐらしい。涼子の意識にもその意識が、ビンビンに伝わっていた。

 

(そげんあせらせんといて♐ 今に存分にネズミば食べさせてあげるっちゃけ♡)

 

 自分が憑依をしている三毛猫――朋子の体にそう言い聞かせながら、涼子は地下水道を先に行ったはずである孝治たちのあとを追った。足早で金庫室から壁に開いている大穴の中へと駆け出して。

 

 もちろん猫の四つ足で。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system