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『剣遊記V』

第五章 地下迷宮の捕り物帳。

     (11)

 この激戦の、まさに真っ最中だった。千秋と千夏の姉妹は必死になって、師匠である美奈子の行方を捜していた。

 

「師匠ぉ、どこやあーーっ! おったら声かけてんかぁーーっ!」

 

「美奈子ちゃぁぁぁん! どこですかぁぁぁ! 千夏ちゃんがぁ助けにきましたですからぁ、出てきてくださいですうぅぅぅ!」

 

 そんなふたりの姿に、孝治もすぐに気がついた。それからためらう間もなく速攻で、ふたりのあとを追い駆けた。今はコブラに変身中なんやけ、声なんか出せんやろうも――のツッコミは、とりあえず置いといて。

 

「こりゃ、ちょっとやそっとじゃ美奈子さんの行方ばわからんばい!」

 

「もしかして、地下の迷宮で迷っとるんかも☜☝☞☟」

 

 友美も孝治といっしょになって、美奈子捜しを手伝った。だが現場があまりにも騒然とし過ぎて、美奈子の目星など、まったく付けられない有様。しかし千夏は、頭をブンブンと左右に振って、孝治と友美に大声で訴えた。

 

「そんなことないですうぅぅぅ! きっとぉ美奈子ちゃんはぁ、ここのどこかにぃ……ああっ! いましたですうぅぅぅ! 美奈子ちゃんのぉお声さんがぁ、千夏ちゃんにぃ聞こえましたですうぅぅぅ!」

 

 そこで千夏が急に、通路のある方向を右手で指差した。

 

「うわっち! それってほんなこつぅ?」

 

 孝治の耳に入る音は、それこそ現場のワーワーといった騒動音だけ。野郎どもの叫び声しか聞こえなかった。

 

 これは友美も同様のようで、やはり周囲をキョロキョロと見回していた。

 

 だけど千夏の双子の姉である千秋は、しっかりと妹に同調していた。

 

「ほんまや! そんなに遠くないで!」

 

 それからすぐ、千夏が声が聞こえたと言い張る方向に千秋自ら、まっすぐ一直線に駆け出した。

 

 相変わらずの野性的俊足で。

 

「うわっち! ちょ、ちょっと待ってや!」

 

「わたしたちも行くけ!」

 

 孝治と友美、さらに千夏もいっしょになって、千秋のあとを追い駆けた。すると確かに、迷路のような通路をかなり走った先に、白くて長いモノが蠢{うごめ}いていた。

 

 もちろんそれは孝治にとっても、今やすっかりのおなじみモノ。白コブラに変身中である、美奈子に間違いなかった。

 

「うわっち! ほんなこつおったぁ!」

 

 捜索がむずかしいと覚悟してまもなく、当の美奈子があっさりと見つかったわけ。孝治ももちろん自分で自覚済みであるが、友美の瞳も真ん丸となっていた。

 

「師匠! ご無事で良かったでぇ!」

 

「わぁぁぁい! 美奈子ちゃんと会えてぇうれしいですうぅぅぅ♡」

 

「相変わらずっちゃねぇ✍」

 

 コブラが怖くて半分怯えの心境にいる孝治と、やはり半分当惑しているらしい友美など、もはやまったくお構いなし。千秋と千夏のふたりは、本当に感激している様子でいた。ふたりしてコブラの長い体を、ためらいもせずに抱き上げるほどだから。また美奈子も、愛弟子たちのそれぞれ肩や首の回りに、軽い感じで巻きついたりしていた。

 

 本気で締めれば、もちろん相手は窒息であろう。無論この場でそのような物騒はありえないが、とにかくこれが、三人(美奈子、千秋、千夏)の喜び表現であるようだ。

 

 さて、師匠と弟子たちが、しばし感動の再会を堪能したあとだった。白コブラが千秋の左耳にそっと口を当て、なにかを話している素振りを見せてくれた。

 

 これに千秋が。また千夏も、きちんと聞き耳を立てていた。

 

「えっ? なんやて? 今からこっちの部屋に行くんやて?」

 

「いったい、なん言いよんね?」

 

 孝治には美奈子がどうしてヘビの姿のまま、千秋と千夏に言葉を伝えられるのか、不思議で仕方なかった。

 

 できればいつの日か、その秘密を尋ねてみたいとも思っていた。

 

 だけどもそのチャンスは、これはこれでなかなかむずかしそうである。

 

 そんな現状で、きょうも疑問が晴れないまま、孝治と友美をうしろに置いて、美奈子と双子姉妹が自分たちだけで、目的の部屋へと走り出した。

 

「うわっち! こっちは無視っちゃね☠」

 

 孝治は半分不貞腐れた。また友美も半分あきらめ調子で、千秋たちのあとに続いた。そんな孝治に、友美が苦笑の顔で声をかけた。

 

「まあ、きょうはそれどころじゃないみたいっちゃね☹ まあ、訊くのはいつでもできることやし……★」

 

「その『いつ』がほんなこついつになるんか、いっちょも保障がなかっちゃけどね☻」

 

 孝治は不貞腐れに加え、こりゃ駄目っちゃね――のあきらめ気分半分で、けっきょく魔術師と弟子たちのあとに続いていった。


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