『剣遊記超現代編T』 第一章 某漫画家の転換、分裂!? (9) 無論話が、これで終了するはずもなし。ふたりの(女性化?)孝治の背後でも、なにやらゴソゴソとしている音と声がした。
「涼子っ! うるさかっちゃよ!♨」
「「うわっち!」」
初めと二番目の(女性化した)孝治は、ほとんど同時にベッドへ顔を向けた。
発声もステレオとなって。
「「うわっち! うわっち!」」
そこ――ベッドではなんと、やはりふたりの同じ顔をした女性――いや女性化した孝治がいた。それも眠っているところを、うるさい声で目覚めたらしい。ふたりそろって、不機嫌そうな顔をモロ出しにしていた。さらに理由がよくわかるのだが、うるさい声を、妹の涼子の仕業と思ったようである。二番目もそうであったし。
もちろん、あとから起きた同じ顔をした女性たち――もとい孝治たちは、すぐに表情を不機嫌から驚愕に変えて、瞳を丸くした。その内の片方が言った。
「うわっち! おまえら誰ね!? しかも人ん家{うち}で真っ裸やなんち!♋」
初めの孝治は言い返してやった。
「いっちゃん先に起きたモンとして言わせてもらうっちゃけど、おまえらもおれとおんなじ、鞘ヶ谷孝治ばい! 早よ起きて、自分の顔ば鏡で見てみいや!☞」
「うわっち?」
「うわっち? 鏡ぃ?」
あとから起きたふたり――三番目と四番目と言うべきなのか。一番目の孝治はそんなふたりの前に、先ほどからの卓上鏡を両手で持って見せてやった。すぐにあとのふたり(三番目と四番目)が、鏡に瞳を集中させた。続いての反応は、やはりワンパターンの域に達していた。
「これ、おれぇ!」
「お、お、お、女じゃーーん!」
このふたりももはや、裸どころではなかった。考えてみれば、この場にいる四人(と言うべきなのか?)は、そろいもそろって体に一糸もまとっていない。言い方に語弊がありそうだが、生まれたまんまの姿格好でいるのだ。
そこへ――である。
「なんなのよぉ♨ お兄ちゃん、朝っぱらからなん騒ぎよっとね☹」
隣りの部屋との境を仕切る襖{ふすま}をガラッと開けて、涼子が寝呆けまなこの顔のまま、大きな声で文句を垂れてきた。念のため涼子はきちんと、青いパジャマを着用していた。
当然、四人に女性化した孝治たち(?)は、そろって妹に顔を向けた。
「「「「涼子っ!」」」」
発声はさらに、四重のステレオとなって発せられた。
「!」
涼子の表情が、一瞬にして凍り付いた感じ。彼女はそのまま、背中からうしろにバタンと倒れてしまった。 (C)2017 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |