『剣遊記超現代編T』 第一章 某漫画家の転換、分裂!? (10) 一瞬だけど、四人の真っ裸姿を目撃。おまけに気絶をしたものの、孝治(たち)の妹――涼子の立ち直りは、ビックリするほどに早かった。
彼女と四人の女性化孝治たちは、とりあえずキッチンに集合し直し。全員の気持ちが落ち着いたところを見計らって、なんとか話し合いの席を作っていた。
テーブルを間に置いて、キッチン側に涼子。その反対の列に、四人の女性化した孝治たちの格好。まるで面接の図である。
もちろん現在は四人とも、きちんと着衣を済ませていた。ただし女性物の衣服の用意などあるわけがないので、全員男物の服装(ごくふつうのTシャツ姿)となっていた。念のため、下着も同様の理由で、男性用のブリーフを着用中である。
でもって、まずは涼子から。
「で……ここにいるみんな、孝治お兄ちゃん……ってわけ?」
「そ、そうっちゃよ……☁」
一番右端に座っている孝治Aが、コクリと返事を戻した。四人が四人とも、完全に見分けがつかない状況なので、現在のところ一時的な処置で、本名の下にそれぞれABCDを付けて呼ぶようにしていた。涼子から見て右から順に、ABCDの並び方である。ちなみに順番は、ジャンケンの結果となっていた。もはや目を覚ました順番も、誰が一番で誰が四番か、わからなくなっているので。
それと今になって説明を加えておくが、孝治が寝るときに着用していた寝間着(参考までに青縞模様)は、なぜかベッドの下に折り畳まれて置かれていた。ブリーフもいっしょで無事に置いてあったのだが、もはやこの程度の謎(?)など、誰も構っていられる状況ではなかった。
話が脇道にそれたけど、再び涼子から。
「……こげなことになっちゃって……お兄ちゃん……いいや、もうお姉ちゃんでよかやね?」
「「「「うん、よかっちゃよ☁」」」」
今度は四人そろって、涼子に返事を戻した。四人になったとは言え、基本的にはどうやら、頭の中身と思考力は一致しているようだ。それはとにかくとして、涼子が問いを続けた。
「……なんちゅうか……こげなことになった、なんか心当たりでもないっちゃろっか?」
「「「「う〜〜ん♋」」」」
四人はこれまたそろって、両腕を組んで頭を右にひねった。それから一番で、右からふたり目の孝治Bが口を開いた。
「おれ……たち寝る前に、つまらんことば考えたみたいっちゃねぇ☢」
ただし、端から見ても――妹の涼子が見ても、区別がまったくつかない同じ顔の羅列である。記号どおりの名前を覚えている者は、それぞれABCDの本人しかいないのだ。
「なんなの? それって?」
顔の件は置いて、涼子が身を前に乗り出した。続いて本人申告である孝治Cが、それに答えた。
「おれもそれば覚えとうけ☞ 寝る前に『女になりたい♀』っとか、『おれが四人おったらええ✌✌』とか、完全に冗談でつぶやいたんやけどねぇ☻」
「「「おれたちもそれば覚えちょう✎」」」
孝治ABDが、声をそろえてうなずいた。
「で、それが実現してしもうたんやねぇ☁」
涼子が深いため息を吐いた。
「まさかっち思うっちゃけど、まさか神様が本当に実在ばして、たまたまお兄ちゃんのつぶやきば本気にしてから、その願いば叶えてくれたっちゅうとやろっかねぇ♋ やっぱ全然原因がつかめん話ばい✄」
これは早い話、涼子のサジ投げ宣言である。でもって、結論がこれ。
「やっぱ……神様のいたずらっちゅうことやろうねぇ✋✋」
実際にそのとおり、真相は万願の女神ミーナの、よけいなお節介――というか、やっぱりいたずらなのであろう。しかしこのような超常現象的原因など、凡人である孝治と涼子に解明ができるはずもないのだ。 (C)2017 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |