前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記超現代編T』

第一章  某漫画家の転換、分裂!?

     (8)

 孝治はいまだ熟睡中である自分と同じ顔の女性に、もはや遠慮もなにもなしの声をかけてみた。

 

「おい……起きんしゃい♨」

 

 人をベッドから落として自分は睡眠を続けているのだから、大した熟睡力の持ち主と言えそうだ。もっともそれで起きない孝治のほうも、すごい常人離れと言えそうだが。それでもどうにか、孝治の現在甲高くなっている声で、彼女(?)は瞳を覚ましてくれた。

 

「あんだよぉ、涼子ぉ……しゃあしかねぇ……☢」

 

 その声は今の孝治とまったく同じ発音と発声。早い話が甲高くなっていた。

 

 そいつがパチリと、孝治と目線を合わせた。とたんに恒例である、甲高い驚きの声を上げ、掛け布団からガバッと飛び出した。なんと彼女も全裸でいた。

 

「うわっち! おまえ誰ねぇ!」

 

 いきなり自分の前に見知らぬ女性がいるので、お互いに裸でいるどころではないらしかった。

 

「それはおれのセリフばい!」

 

 今の自分と寸分も違わない顔をした女性に、孝治は大きく怒鳴り返してやった。

 

 とにかくどこからどう見ても、今起きた女性の顔は、女性化している自分自身の顔――そのものだった。それは動転している目で見つめてみても、一ミリの違いも見当たらないほどに。ただし改めて冷静によく見れば、全裸の女性のプロポーションの、これまた絶景なこと絶景なこと。妙な違和感を生じさせて仕方がないのだが、完ぺきな美人と言っても差し支えないのではなかろうか。

 

 孝治は気を取り直し、目の前に存在している自分と同じ顔をした女性に、今度はそっとの感じで声をかけてみた。

 

「おまえ……鞘ヶ谷……孝治やろ☛」

 

 同じ顔の女性は、コクリとうなずいた。

 

「あ、ああ……☁」

 

 それから女性は、このとき初めて、自分の姿格好に気づいたようだった。

 

「うわっち! なしておれ、裸になっとうとや!」

 

「あちゃあ〜〜♋」

 

 初めに目覚めた孝治は頭痛の気分になって、同じ顔の女性に先ほど自分の女性化を認識させてくれた卓上鏡を、右手で持って見せつけてやった。

 

「ほら、これ見るっちゃよ☜」

 

「…………?」

 

 女性がその鏡を覗き込んだ。孝治と同じパターンで噴き出した。

 

「うわっち! これがおれけぇ! なしておれ、女になっとうとやぁ!」

 

 同じ顔の女性――つまりふたり目の孝治は大慌ての有り様となって、裸でいる自分の体を両手で当たりまくった。特に胸や股間の部分を重点的に。

 

 ひとり目の孝治はつぶやいた。

 

「こいつもおればい……おれが女になって……しかもふたりに分裂け? いったいなんが起こったとやぁ?♨」


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2017 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system