『剣遊記超現代編T』 第一章 某漫画家の転換、分裂!? (20) 「はぁーーい☀ お待ちしておりましたぁ♡」
初めに出てきた者は、やはり声のとおり、妹の涼子であった。
「おっ♡ 可愛い娘ちゃん♡♡」
「やったぁーーっ! 最高の職場だよ、ここはぁ✌✌」
若手ふたり組である和布刈と井堀が、あっと言う間に両目を♡型へと変形させた。また年長組の後方ふたり(枝光と砂津)も、表情にほんわかとした笑みを浮かべていた。
「これは確かに、職場に綺麗な花がありそうだなぁ☺」
などと最年長者である砂津がつぶやいたほどに。
「え、ええ……まあ……☻✊」
涼子への、男たちの好意的な声を耳に入れた友美の笑顔は、やや引きつり傾向だった。だから小声で、そっと涼子に尋ねた。
「あのぉ……お兄さん……じゃない、お姉さん……たちは?」
涼子は速攻でうなずいた。
「あっ……今来ます☚」
まさに妹の声に呼応するかのようだった。玄関から見て廊下の奥から、元気の良い――と言うか、かなりに空元気気味な返事が聞こえてきた。
「「「「あっ……待ってましたぁーー♋」」」」
「今のが鞘ヶ谷先生の声ですか?」
枝光が友美に尋ねるが、それでも今のところは、特に不思議を感じている様子はなし。これは他の者たちも同様の感じ。男どもの誰も、聞こえてきた声が変に四重奏となっていたことに、気がついているようには見えなかった。しかし、奥からさらに聞こえるドタバタとした物音には、さすがの鈍感者たちも、一様に妙な顔付きとなっていた。
「ずいぶん大人数がいるみたいだけど、鞘ヶ谷先生のスタジオって、もともと人がいっぱいいたんですか?」
再びである枝光のささやきで、友美と涼子が思いっきりな苦笑顔となった。
「え、ええ……いや、そのぉ……先生ってけっこう慌て者ですから……☻」
「そ、そうなんです……☻」
そのような、やや困惑の渦と化している玄関であった。そこへとうとう、本人――たちが登場した。しかも発声を、一ミリの狂いもなしにそろえたりして。
「「「「お、お待たせしました、皆さん! きょうからよろしくお願いしまぁーーす!」」」」
「!」
「!」
「!」
「!」
和布刈、井堀、枝光、砂津の四者が、ほとんど同時で目玉を真ん丸にして絶句した。
それも無理はなし。奥の院から現われたる者――いや者たちが、そろいもそろって完全にうりふたつ――いやいやうり四つの顔であったから。 (C)2017 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |