『剣遊記超現代編T』 第一章 某漫画家の転換、分裂!? (16) 「う……う〜ん☁☁☁」
これも涼子と同じパターンで、友美も割と早い時間で瞳を覚ました。
「きゃん!」
それからすぐに悲鳴を上げた理由も、無理はなし。先ほど拝見したばかりである、寸分も差の無い同じ顔の女性たちが、一応心配そうな表情をして、四人で上から覗いていたからだ。
「だ、大丈夫……ですか?」
これまた代表するわけでもないが、孝江が一番に声をかけてみた。残りの三人も、なにかひと言述べたい思いで、実は内心がうずうずとしていた。
「あ……あなたたちって……☢」
一度は気絶をしたものの、友美は生来からの気丈ぶりを、早くも元どおりに回復させていた。そのため質問も速攻であった。
「なんだか……鞘ヶ谷先生に似ている感じがするんですけどぉ……もしかしてお姉さん……たちか、妹さんたち……ですか?」
「「「「そ、それはぁ……☁」」」」
元孝治たち四人は、雁首そろえて頭を左右に振った。とにかくいったい、この状況を、いかに納得がいくよう説明すれば良いものやら。
そこへ元孝治たち四人の背中から、涼子が口をはさんでくれた。
「……そりゃ一発で信じられん、っち思うとですけどぉ……ここにおるのは、あたしのお兄ちゃん……だった人たちです♐ ほんなこつ信じられんっち繰り返すとですけどぉ、朝起きたら性転換しとっただけやのうて、ひとりが四人に分裂までしとったとですよ♋♋」
先ほどは説明のしようがなくてうやむやにしか言えなかったのであろうが、こうなればもはや、まさに単刀直入という感じ。
「性転換……? は、わかるんですけどぉ……ひとりが四人に分裂ですかぁ?」
今の御時世、男性から女性への変身であれば、友美の理解の許容範囲内であるようだ。
現実に、性転換手術が存在する世界でもあるのだし。
しかし、ひとりが四人に細胞分裂ともなれば、話は別次元に移行するようでもある。友美は大きく瞳を開いて、横一列に並んでいる元孝治たち四人の顔を、右から順に眺め回した。誰でもなにかを行なうときは、必ず右から始めるものなのだろうか。
「……確かに鞘ヶ谷先生を女性にしたら、こんな顔になりそうですねぇ……♋ 性転換だったら手術で可能なんでしょうけど……理由は聞かないことにして……でもひとりの人間が四人になるなんて、ほんとに可能なんでしょうか?」
「その答えば、おれたちのほうが聞きたかですっちゃよ♐」
治代が半分ふてくされたような顔になって、友美に言い返した。続いて孝乃が言った。
「さらに今のおれ……おれたちに、女にならなきゃいかん理由なんか無かですよ✄ まあ、冗談で考えたことはあるっちゃけど、それが本当のことになるなんち……⛑⛔」
「でもぉ……法律的には、どんな扱いになるのかしら? わたしもそんなに、この手の法律にはくわしくないんだけど✍」
友美が民法上の問題を持ち出した。これは決して、先に出ていた涼子と元孝治たち四人の話を、むし返したわけではない。第一そのときは、友美はいなかったのだし。だがやはり、誰もが気になる、今後の先行きの展開であろう。
「それなんよねぇ〜〜、問題は☠」
孝乃がため息を繰り返した。それからしばし、全員で腕を組み、一番に言い出しっぺである友美が答えた。
「ここは……わたしの思いつきみたいな意見なんですけど、四人の中でひとりが代表して裁判所に改名と性別変更を申請して……朝起きたら性別が変わってましたが通用するのかどうか、自信を持って言えないんだけどぉ……それから例えが悪いとは思うんですけど、残りの三人は発覚した隠し子ってことにして、正式に認知して入籍するしかないかしら? 今の日本じゃ、本当にクローン人間が出た場合の法律って、きちんと決まってないと思うから……☠ ほんとに悪い例えでごめんなさい☹☂」
すぐに友美が、ペコリと頭を下げた。
「おれたちの親父って……隠し子作るほどモテる男やったとは思えねえと思うっちゃけどねぇ☢」
治花が苦笑気味に返すも、座は再び、しばし沈黙の場となった。 (C)2017 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |