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『剣遊記超現代編T』

第一章  某漫画家の転換、分裂!?

     (15)

 その間にも玄関のほうからは、本物(?)の女性同士の、軽やかな会話が響いていた。ただし、会話の感じでは、涼子がなんだか引いている様子。反対に漫画家と担当記者としての付き合いが長い――つまり聞き慣れている友美の声は、話の要領をうまく呑み込めていない雰囲気になっていた。

 

「と、とにかく……上がってください☁」

 

 入室を勧める口調の感じでは、涼子はやはり、上手に説明できなかったようだ。現在の鞘ヶ谷家の状況を。

 

「……無理なかばい……☢」

 

 それでも孝江を始め、元孝治たち四人は、涼子の努力に感謝をした。実際この大変化は、本当に目の当たりにしないと、誰も理解ができない話であろう。

 

「お姉ちゃんたちぃ、友美さんが入るっちゃよぉ!」

 

「お姉ちゃんたちって?」

 

 まだ姿は見えないが、涼子に連れられているであろう友美の声は明らかに、状況を不思議がっている感じがしていた。

 

「「「「お、お、おはようございます☀」」」」

 

 とにかくこのままでは、まるで話に進展がなし。元孝治たち四人は自分のほうから、玄関から上がったばかりでいるらしい友美の前に、一斉で顔を出してやった。

 

 まったく同じ顔を四個も並べて。

 

 ここで余談だが、実は友美と涼子は赤の他人ながら、まるで双子の姉妹のように、よく似ている顔をしていた。だからお互い初対面のときなど、そのときは男だった孝治をはさんで、思わず両者噴き出したものだった。

 

 無論偶然で、『他人の空似』である。

 

 これは今後の話にはあまり関係しないので、一応ここらで打ち切っておく。なお、この同じ顔の件で、涼子と友美は大の仲良しとなっていた。そのため孝治が『浅生さん』と、それなりに一線を引いた呼び方をしているのに対し、涼子は親しみを込めて『友美さん♡』と呼んでいた。

 

 だが友美にとって、この他人の空似以上である超ビックリ的事態が起こったのだ。

 

「…………☠」

 

 案の定――と言うべき展開だった。寸分も違わない、まったく同じ顔である女性が四人もいきなり並んで登場した衝撃であろう。友美は瞳を大きく丸くしていた。

 

「友美さん……大丈夫?」

 

「…………♋」

 

 むしろ反応が、小規模だったように感じたらしい。涼子がまるで硬直状態になっているような友美の眼前を、右手で上下にパタパタと振ってみた。

 

 やはり反応は無かった。

 

「あっ……気ば失っちょう☠」

 

「うわっち! やっぱしやねぇ☢」

 

 涼子が異変に気がつき、治花がそれに応え、残りの三人も『さもありなん☠』とうなずいたとたんだった。友美がバタリンコと、廊下にて背中から仰向けに倒れてしまった。

 

 涼子のときと、ほとんど同じ。


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