『剣遊記超現代編T』 第一章 某漫画家の転換、分裂!? (13) けっきょく元孝治たちは、これ以上なんの対策も立てられないまま。それでも担当記者との、約束の打ち合わせ時刻が迫っていた。
「はい、それでは前から言っていた新しいアシスタントの人たちもいますけど、ちょっと待ってもらって、先にわたしが先生の所に参りますね♡」
〈はい、お願いします……♠〉
未来出版勤務である鞘ヶ谷孝治担当の雑誌記者――浅生友美{あそう ともみ}は、相手が電話であっても、ニッコリとした笑みを絶やさなかった。たとえ電話の向こうが本人ではなく、代理で妹が出ていても。
彼女は実は、孝治と同年齢であるニ十歳。子供のときから憧れの的だった少年少女漫画雑誌の出版社に就職し、早や二年。女性ながら少年を対象とした雑誌勤務であるにも関わらず、仕事への情熱は毎日充分以上に発揮されていた。
しかも今年から担当となった新人漫画家――鞘ヶ谷孝治の成長に、自分が関係できる光栄に授かっているとの思いもあって、まさに今は雑誌記者冥利に尽きる毎日とも言えていた。
「では、わたしが先に鞘ヶ谷先生の所に行ってきますので、皆さんはもう少しここで待っていてくださいね☺ 簡単な打ち合わせが終わりましたら、すぐに呼びに来ますので☀」
「はい、わかりました✌」
電話の場所である某喫茶店の奥のテーブルには、四人のヤローどもがコーヒーを飲みながら、友美の指示に従っていた。いずれも孝治のために友美が集めてくれた、漫画スタジオのアシスタントたちである。友美への返事は、この中の最年長者が戻していた。
「じゃあ、先に行ってきます✈」
喫茶店から出る友美の駆け足は、心なしか、かなり軽いスキップ調となっていた。自分では深く考えないようにしているのだが、仕事で孝治と会うときに限って、心がなんだかとてもウキウキとするのだ。 (C)2017 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |