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『剣遊記超現代編T』

第一章  某漫画家の転換、分裂!?

     (11)

 それから涼子が、横一列に並んでいる孝治たちの顔を、右から左までまっすぐに見比べてくれた。

 

 孝治たちはそろって、なんだか恥ずかしい(*ノωノ)気持ちになってきた。

 

「あ、あんまし変わっちまった兄の顔ば、ジロジロ見るもんやなかっちゃよ

 

 孝治Dが文句を垂れた。さらに涼子はささやいた。

 

「やっぱ、いつまでもABCDなんち言いようわけにはいかんけ、きちんとひとりずつ名前ば付けたほうがええんとちゃう?」

 

「「「「なまえぇ?」」」」

 

 孝治たち四人の声の唱和が、何度も同じで繰り返された。これに別に代表するわけでもないが、孝治Bが涼子に言葉を返した。

 

「じゃあ今から『孝治』の名前ば変えて、女ん子らしい命名にするっちゅうとね? 親からもろうた大事な名前ば、こげな冗談みたいなことで変えるなんち、なんか罪悪感がうずく気がするっちゃねぇ

 

 続いて孝治D。

 

「……確かに性同一障害ば訴えちょう人が、ほんなこつ性転換手術ばして、戸籍も男から女に変えたっちゅう話はよう聞くっちゃけど、おれ……たちみたいに原因不明で性転換しちゃったもんは、裁判所がどげな風に扱うとやろっか?」

 

「法的にどうなるっちゅうことやねぇ?」

 

 涼子も両腕を前に組み直した。それから少し考えた感じで、自分の前にいる四人の元兄である女性に答えた。

 

「まっ、そこはしばらく様子見っちゃね☻ 急な性転換と四人に分かれた原因がなんかわかるまで、戸籍と名前の正式変更ば、少し先延ばししてもええっちゃけ☞☞」

 

 妹の意見のほうが、どちらかと言えば前向きな傾向のようである。

 

「と、とにかく、仮やけど名前ば決めよっか✍ 確かにいつまでもABCD言うわけにはいかんちゃけ

 

「「「うん……☁」」」

 

 孝治Aの進言に、残りの三人(B、C、D)がコクリとうなずいた。

 

「で、どげな風にすると?」

 

「あたしに考えがあると✌」

 

 至極当然な孝治Cの疑問には、涼子がさらっと解答してくれた。それからすぐに、テーブルの上に裏が真っ白の広告紙と鉛筆{えんぴつ}を置いて、すいすいと記入しながらで説明を始めた。

 

「う〜ん、お兄ちゃんの『孝治』って名前ば分解して、『孝{こう}』と『治{じ}』をそれぞれふたりずつで使うって、どげんやろっか? 実は今、話し合いながら頭ん中で考えよったんやけど、『孝{こう}』ば『孝{たか}』読みに変えて、川ば意味するさんずいの『江{え}』って漢字ば付けて『孝江{たかえ}』さんと、女子の名前でよう使われちょう『乃{の}』って漢字ば使って、『孝乃{たかの}』さん✌ 次の『治{じ}』ば『治{はる}』に変えて、これに女ん子らしい『花{はな}』の字ばくっ付けて『治花{はるか}』さんと、最後に『代{だい}』の字ば付けて、『治代{はるよ}』さんっちゅうのはどげんね? かなり適当な付け方なんは、この際ごめんやけどね☻」

 

「ほんなこつインスタントばいねぇ☹ まるでペット並みの付け方やねぇ☠」

 

 孝治Aがつぶやいた。続いて孝治Bも口をはさんだ。

 

「で、やっぱりそん名前も、ジャンケンで決めるっちゅうことやね おれとしてはもう、異議も疑問も、どげんでもよかっちゃけ

 

「右に同じ☛」

 

「おれも☛」

 

 CもDも、もはや白旗を揚げたような顔となっていた。このあとやっぱりジャンケンをして、四人がそれぞれ女性名を名乗るようにした。ABCDは、早くも終了である。


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